私やあなたの痛みに正面から向かい合ってくれる物語だ

とにかく「まともになりたいか?」この一言が心に刺さった人間は出来るだけ前情報抜きで早く是非読んでほしい
そして私と語ってほしい これだとレビューにならないのでちゃんと書く
出来るだけネタバレを抜きにして語るが多少展開を含んでしまうので
そういうのが気になる人はここでやめて早めに読んでほしい


ある日ストレスが重なって精神を病んだ主人公は奇行に走り入院する
そこで「性格を矯正出来る」というある新薬を試すことになるが……?


もうとにかくめっちゃ怖い。
これ性格が治るっていうより性格がいいとされる人格が生まれちゃう
そして「俺のがいい奴じゃん。だからお前は消えちゃえ」と自我を消しにかかってくるのだ。

怖い。怖すぎる。
何が怖いって今まで関わって来たありとあらゆる常識が通用しない。
通用しないどころか常識が牙を向いて襲いかかってくる。
だってあっちの方が「まとも」だから……!

「気の利いたこと言わなくちゃ」「変なこと口走ったらどうしよう」「すてきなあいさつを」「友好な人間関係を築くための必要なスキル」「愛されるための振る舞い」「バーベキューに呼ばれたい」「彼女ほしい」「豊洲とかすごい街に住みたい」

言葉にすると「いや気にすんなってw」と思わず否定してしまいたくなってしまうような響きだが無意識化で私たちはどこかもっとこうでありたいと願ってしまっているところは…ないだろうか……
心の隙の突き方が尋常でなく良い意味でえげつない。おのれ角山製薬め

しかも傍目から見るといい(とされる)ことづくし!なので誰も助けてくれない
こんな孤独が許されてたまるか!?悲しくなっちゃうだろ!

主人公がおじさんなのも最高だ。
かわいそうな少年少女とかじゃないので全然同情を誘わない。
いわゆるフィクション上のアバターとしての逃げ場にならないのだ。

「あなたはあなたのままでいい」ありとあらゆる物語で役に立つ(とされる)
この伝家の宝刀がこの物語を読んでいる際には通じない

だって女性器の名前を意図せず叫んでしまうおじさんにあなたは言えるだろうか
いきなり癇癪を起こしてわめき散らし爪切りで自傷するおじさんに
あなたはあなたのままでいいなんて心から言えるか?

私は初めて見た時正直関わりたくないと思った
(一見の判断であげつらう風潮を的確に撃ち抜いている小説でもあると思う)
だからこそこの小説は「まともになりたい」私やあなたの痛みに正面から向かい合ってくれる物語だ

上記のようなどうしようもない振る舞いを魔法のように消せるとしたら思わずすがりついてしまうのも無理はない……
というかそう思わせる描写のリアリティと底力がこの作品にはある

そしてこの小説の視点がわかったとき本物の恐怖が襲ってくる
一体誰のために戦うのか、本当に考えなくてはならないその時がやってくる
めちゃくちゃ痛いし怖いけれど私は" "が苦しんで考えて悩んで下した答えを尊敬しているし、大好きになった。

もうちょっとなんか本当にいいのでとにかく読んでくれ〜!
おすすめ!

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