子供同士の殺し合い、頭領の気まぐれで殺される仲間たち、生きるために人殺しを強いられる日々、息をするのさえ誰かの顔色をうかがうような毎日……
主人公イヌの生きざまは苛酷です。
頭領の意に添わぬ生き方をすれば死。
恐怖に身がすくみ、希望も感情も失いかけて、でもそうしないと生き残れない盗賊団での生活は、読んでいて胸が締め付けられました
そんなイヌの前に現れたネコという少女。
イヌは彼女に殺しの技術を教えるように命令されますが、上手くいきません。逆に少女と暮らすうち、イヌの心中に芽生えたものとはーー。
彼の身に刻み込まれた恐怖が、諦念と卑屈に彩られた毎日が、ネコによってどのように変わっていくのか、二人の生きざまをどうか見届けてください
盗賊団で先行暗殺の役目を担うのは人の名すら与えられぬ奴隷。
過酷な境遇は彼の声と瞳から生気を奪い、暴力をかざす頭領に怯えながら言われるがままにその手を汚す日々。
そんな彼の前に連れてこられた天真爛漫な少女によって、止まっていた運命の歯車が再び廻り出し・・・
描かれた過去は読むに堪えないほど悲惨なものです。
作者のサディスティックな性癖を押し付けるかのような残虐描写でいかに悍ましいものを書けるか競い合う小説は数多ありますが、この作品はそれらの嗜虐的作品群とは一線を画しています。
あくまで物語を、舞台を、時代を構成する一要素として、生きたキャラたちが繰り広げる策略の応酬、渦巻く野望の裏側でしわ寄せとして生み出された惨劇は、だからこそ読者を否応なしに引き込む力があります。
そして何より、この物語を読み続けずにいられないのは、一筋の光としてもたらされた少女の魅力と、それにより徐々に引き出される青年の優しさが織りなす眩しい愛情に未来への希望を見て、その行く末を応援したいと思うからではないでしょうか。
肥溜めのような世界の中で2人の関係はどこまでもプラトニック。男女の情愛は一切挟まず、お互いをいたわり大事に思う心が宝石の輝きを放っています。
大国の思惑、利害の絡み合い、戦略的要所の攻略作戦など、物語全体の構成も非常によく練り込まれていて、予想もつかない手に汗握る展開は実に見事です。
吠えない犬が吠えられるようになるまで、噛めない猫が噛めるようになるまで・・・失ったものは大きいですが、それよりも2人が得たもののほうがさらに大きいということを、悲壮感を微塵も漂わせない2人の様子から伺うことができ頼もしく思いました。
これからは自由な空の下、お互い寄り添って存分に幸せな生活を満喫して欲しいと心から願っています。
その地には、滅ぼされた亡国があった。国の名はアガルト。国を失った人々は、ならず者となって侵略者たちを襲う強盗団と成り下がる。
そんな強盗団『アガルトの夜明け』に、1人の青年と少女がいた。
人を殺すことしかしらない青年イヌと、人を殺すことができない少女ネコ。
『アガルトの夜明け』で畜生のように扱われながらも、暗殺という訓練を通じて2人は絆を深めていく。
そしてイヌには、ネコには言えない秘密があった――
自身を支える『約束』とネコとの絆に苦悩しながらも、やがてイヌは自由を得るために自身を支配するアガルトの夜明けに反旗を翻す。
全ては、かけがえのない少女を守るために。
青年は少女を救い、自由な風になることができるのだろうか。
盗賊団の斥候兼尖兵として暗殺者として育てられた青年……名はイヌと名付けられた。彼は自身の心と自由を犠牲に「アガルトの夜明け」の頭領に命を握られていた。
その反面、彼はアガルトの亡霊と呼ばれ、暗殺者としても恐れられていた。
そんな彼の前に、陥落した町の戦利品として年端もいかない少女が連れてこられた。ネコと呼ばれる少女に家畜の名を持つ少年は近しいものを感じ、彼女もこの世界で生きられるように盗賊団の頭や仲間達にある提案をする。
ネコに備わった身体能力を利用し、断崖絶壁に聳え立つ敵軍の砦攻略に一役買って貰おうとするものだった。
ネコの存在はイヌに何をもたらすのか…。
戦火の中、血生臭い世界で二人の少年少女がそれでも生きようと足掻いた軌跡の物語。
ややダークな大人向けのボーイミーツガールといったところか。
主人公のイヌは、およそ人間の尊厳を持たないヒエラルキーの最下層として生きる少年だ。命令とあらば殺戮さえもいとわないまさに飼い犬である。しかし奪うことは命じられども、与えられることはない。
そんなとき、戯れにあてがわれたネコという天真爛漫な少女に、彼は心惹かれていく。
最初はよくあるアウトローの成り上がりストーリーかと思っていた。だが油断めさるな、この物語は進むにつれ、イヌとネコは大きなうねりへと飲み込まれてゆく。彼らは一体どうなってしまうのか、イヌのいう約束とは。
今後の楽しみな作品のひとつである。