第六話 作戦会議
後日、僕らは学食で話し合った。
駄目になった文化祭の代わりに、初ライブの日程を決めるためだ。
「二十八日の土曜にしようぜ。『ハンクス』がウチでイベントするんだよ。もう一バンドぐらいなら頼めばねじ込んでくれるかもしんねー」
『アンガー』の手伝いを再開し、ブッキング担当も任されるようになった透がスマートフォンで予定を確認する。
ちなみに『ハンクス』は、僕も知っている地元でも有名な社会人バンドだ。
「あー、でも、月末ってみんな忙しいんじゃないかな? うちのお父さんだって月末はいつも帰りが遅いよ」
隣の梨津の言い分はもっともだ。
きっと『ハンクス』は二十五日の給料日以降、懐の暖まっている時期を狙ったんだうけど、最近は、別の日が給料日の会社も多いし、土日出勤のところもある。
「じゃあ、二十一日は? ここも割と客を呼ぶバンドが揃ってるぜ」
それでも透が土曜日にこだわるのは、僕ら高校生が動きやすいからだったりする。
だけど、文化祭に比べたら集客はガタンと落ちてしまう。
僕と梨津が揃って難色を示すと、透はため息を吐いた。
「あのなぁ、いつまでも終わったことを気にしてちゃ、始まるもんも始まんねーだろ」
「そうなんだけど……」
「やっぱり引きずるっていうか……」
僕と梨津は顔を見合わせた。
正直、あのクオリティの音源で審査に落ちたのは信じられないし、実際、妙な噂も小耳に挟んだ。
姫菱が学校側に何らかの圧力をかけたというのだ。
彼女の父親は割と発言力のある市会議員だ。可愛い一人娘のためにしゃしゃり出てくる可能性は十分ある。
もしそうだとしても、僕らにはどうすることもできない。けど、腑に落ちない。
このやり場のない思いを持てあましていて、どうしても先に進もうという気力が沸いてこないのだ。
「それじゃあ、ゲリラライブでもすっか?」
椅子の背もたれにもたれかかっていた秀二が身を乗り出す。
「どこで?」
「モチ、文化祭で。中庭だったら他のやつらの迷惑にはなんねーだろ?」
「いや、それはちょっとまずいんじゃ……」
時ヶ丘高校の文化祭は派手だけど、その分、学校側の締め付けは厳しい。許可のない出し物はすぐに摘発されて、延々と教科書の写本を空き教室でさせられる羽目になる。
「はぁ、じゃあ、どうすんだよ」
投げた、とばかりに秀二はスマートフォンを取り出す。
僕もテーブルに目を落とした。
みんなには奏が文化祭に来ることをまだ教えていない。
ステージに立つなら「見返してやろう」と煽ることもできたけど、立てない以上、言ってもしょうがないことだ。
そして、しばらく沈黙が続き、空気が重苦しくなると、
「おい、これ……!」
秀二がスマートフォンを僕らも見られるようにテーブルの中央に差し出す。
それは、女友達からと思われるSNSのメッセージ画面で、「このコって、しゅうちゃんと同じ学校のコだよね?」という文章の前に、画像が貼られていた。
バーかどこか、すごく薄暗い場所だけど、火の付いたタバコを片手にビールジョッキを煽っている姫菱と彼女のバンド仲間が、確かに写っていた。
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