エピローグ 約束

 ライブの余韻に浸りたかったのも山々だけど、僕は知万里伝いに奏から呼び出された。


 辿り着いたのは校舎の屋上。講堂でミスコンをやっているせいか、他に人はいなかった。


 ドアを開ける音で振り返った奏は、ゆっくりと近づいてきた。


「話ってなに?」


 問いかけると、彼女は足を止めた。

 距離は二歩もない。


「十五センチ……」

「え?」

「知らない? 私と圭太君の身長差……」

「そうだっけ……?」

「うん、でも今はもっとあるみたいね」


 奏はくるりと背を向けた。


「怒ってるよね?」

「……」

「ずっと、ずっと謝りたかった……ごめんなさい」


 振り返り、頭を下げた奏に僕は首を横に振った。


「……いいよ。もう過ぎたことだし」

「怖かったのっ!」


 頭を下げたままの奏が叫んだ。


「な、なにが?」

「あのままずっと一緒にいたら、圭太君のこと好きになっちゃいそうで……『ポロロンズ』が壊れてしまうかもって……だから、何も言えなくて……」


 そこで奏は頭を上げた。

 彼女の瞳は涙で濡れていた。


「でも、今日、ちゃんと〝さよなら〟できた……最後の――」


 奏はトントン、と左胸を叩く。


「最後の曲、届いたよ」

「うん……」


 僕らは向かい合ったまましばらく黙ったけど、耐えられなくなったのか、涙を拭った奏が先に口を開く。


「一つ、約束しない?」

「何を?」

「何年かかってもいいから、いつか、きっと……同じステージに立ちましょう」

「確約はできないけど……うん」


 現実味に欠けるこの約束は、六年後、日本最大のロック・フェスティバルで実現することになる。


「……もう、いかなきゃ」


 腕時計で時間を確認した奏がドアへと向かう。


「あのさ!」


 僕は思わず呼び止めた。


「なに?」

「……ツアー、頑張って」

「うん、ありがとう!」


 大きく手を振った奏は、ドアの向こうへと消えた。


 そして僕は空を見上げた。


 澄み渡る秋空は、とても清々しかった。

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さよならロックンロール 吉高来良 @raira_yoshitaka

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