第八話 さよならロックンロール
そして文化祭当日。
僕らの演奏時間は、あっという間に過ぎていった。
「――次で最後の曲になります」
とんと堅さが取れた梨津が告げると、場内から「え~っ!」と声が上がる。
「ありがと。わたしも寂しいけど、一生懸命歌います……聴いてください、〝さよならロックンロール〟」
照明が暗転し、一呼吸置いてから僕はギターをかき鳴らす。
じわじわと浮かび上がるような、それでいて力強いリフ。
そこへ一小節のフィルから、透のドラムと、エンジンを吹かすようなスライドで秀二のベースがインし、梨津もバッキングを奏でる。
これまでのポップな曲調と一転したロックテイストに、戸惑いを隠せない様子の見物客たちも、リズムを取り始める。
そしてAメロ。梨津が歌い出す。
透明感が溢れる梨津の歌声は、ポップスが最適解かもしれないけど、芯がある。絶対、ロックにも合うはずだ。
証拠に、見物客たちが「おぉ!」と唸った。
それからBメロは、カッティングに合わせた印象的なリズムと、伸びやかに歌う梨津のボーカルがマッチする。
後半、徐々に盛り上がっていき、サビへとなだれ込む。
メジャーの明るいコード進行に沿いつつも、ほんのりと哀愁を含むメロディーラインは、みるみるうちに皆の心を鷲掴みにするのが見て取れた。
興奮でアドレナリンがギンギンの僕は、ブースターをオンにして前に出る。
ギターソロ。
早くは弾けないし、凝ったフレーズを織り交ぜることもできない。でも何度も何度も練り直し、手に馴染ませてきた渾身のソロを、僕は感情剥き出しで弾き倒す。
沸き起こる歓声に、僕の脳みそは痺れっぱなしだ。
見せ場の終わった僕が戻ると、二コーラス目に突入する。
「みんな一緒にーっ!」
Bメロの終わりで梨津が煽ると、サビは会場全体を巻き込んでの大合唱。
僕と秀二と透も、負けじとコーラスを返す。
そして最後の大サビで梨津のボーカルが加わり、一つになる。
年齢も性別も関係ない。初めて聴く僕らの音でみんなが繋がった瞬間。
その素晴らしい光景は、最後列で見ていた奏にも確実に伝わったはずだ。
彼女は流れる涙を何度も拭っていたのだから。
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