第七話 完成
姫菱の件は大問題になった。
頼みもしないのに秀二の女友達がSNSに拡散してしまったからだ。
学校側に呼び出された姫菱は一貫して飲酒と喫煙の事実を否定し、挙げ句の果てには父親の力を使ってもみ消そうとした。
けど、タイミング悪く、姫菱の父親の汚職が発覚した。
マスコミが挙って姫菱親子のことを報道した結果、父親は刑務所へ、姫菱は停学ののちに自主退学した。
自業自得だけど、後味の悪い結末に、僕らは居心地の悪さを覚えた。
なぜなら、姫菱たちのバンドが文化祭への出場を取り消され、僕らが出ることになったからだ。
通達に来た実行委員は、審査の段階で姫菱に脅されていたことを暴露し、僕らを強制的に落としたことを謝罪した。
また、興味なさそうな教師たちからは激励された。
ダウンした時ヶ丘高校のイメージを、元『ポロロンズ』の僕らに払拭してもらいたいのだろう。
でもそれは、僕らじゃなくて奏のほうが適任だ。
けれど、奏の公式ブログには、故郷の話が消され、またウィキペディアの出身高校の欄と『ポロロンズ』の部分が削除されたことから、関与しないという意志がはっきりと読み取れた。
きっと彼女は文化祭には来ない。
「おい、圭っ!」
秀二の鋭い声が僕を現実――バンド練習へと引き戻す。
「テンポ、走ってんぞ!」
「ご、ごめん」
僕が謝ると、透がカウントし、同じ箇所を演奏し始める。
すっかり萎えてしまった文化祭だったけど、僕の作った新曲のせいで、みんなはやる気を取り戻した。
文化祭の持ち時間は二十分。曲にするとだいたい四曲ほどで、もう一曲をどうするか相談していたところ、試しに聴かせてみた。
すると、満場一致で、即、採用された。
まさかの高評価で、正直、困惑している。
だいたい、この曲の歌詞は後ろ向きだし、初めて書いたこともあって、どこか繋がっていないようにも思える。
そんなことを考えていたら、決めの部分をミスり、また秀二に怒られた。
それからいい感じに仕上がったので、休憩所で一息つくことにした。
「いや~、マジ、いいんじゃないの? 圭太っち先生の〝さよならロックンロール〟」
透が炭酸水のキャップを開けながらすり寄ってくる。
「先生はやめてよ」
「なにをおっしゃいますか~! 初めて『フー・ファイターズ』を聴いたときを思い出しましたぜ!」
「それは言い過ぎだろうけど、確かに『フォール・アウト・ボーイ』並みのセンスを感じたな。いや、参った」
それも恐れ多いけど、辛口な秀二がここまで言ってくれたのは初めてだ。
「わたしはどのバンドの曲よりも好きだよ! 特にサビ! ず~っと頭から離れないもん!」
作曲者の僕が言うのもなんだけど、梨津の意見には同意する。
サビは、一番最初に降りてきたメロディーで、手を加える余地がまったくなかった。
「そんなに褒めても何も出ないって……」
「あ、はいは~い! 先生、一つ聞いてもいいですか?」
だんだん恥ずかしくなってきた僕に向かって、梨津が挙手する。
「なんだね、北原くん」
透が世界史の老教師を真似ると、梨津はプリントアウトした歌詞を眺めながら僕に尋ねる。
「この歌詞って、もしかして、奏ちゃんに向けて書いたの?」
ゾワリ。
僕の首筋に鳥肌が立つ。
作詞の初心者なりにだけど、オブラートに包みまくって書いたはずなのに、どうしてわかってしまったんだろう。
「あ、やっぱり」
沈黙する僕を見て梨津がニヤリとした。
「え? そういう風には取れないけどな」
梨津の持つ歌詞を秀二が覗き込む。
「女ったらしなのにわかってないね! これは奏ちゃんへのラブソングだよ!」
「女ったらしじゃねーしっ! ってか、圭は、奏のこと好きだったのかっ!?」
「ち、ちがうよ! ほ、ほら、奏とはきちんと〝さよなら〟できなかったから……」
これは本音で、ラブソングでも恨み節でもなく、僕なりの別れの挨拶だ。
「「あ~、そういうことか」」
秀二と透は納得したけど、梨津はどこか腑に落ちない様子だった。
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