どこまでがリアリティなのか

 まずは、「ひとり1つの最高傑作」企画への参加、ありがとうございます。

 ミステリ、と言っても今ではどこからどこまでがミステリなのか分からないくらいに広い幅で書かれています。この小説も、ミステリとは言っても読者に推理させる気はないようです。
 私は以前、「名探偵」の名を冠した小説を読んだのですが、まるでトリックだけがまるで現実的でない、ファンタジーな凶器を用いて殺人を行っていたことに、ほとんど怒りを感じたことがあります。こっちは推理したくて探偵小説を読んだのに、こんなの分かるはずがないじゃないか! 下手に理屈をこねて現実味を持たせてはいるが、結局魔法で殺したようなものじゃないか!と。
 ですがこの小説はあくまでミステリ。探偵小説ではない。加えて、溜池から現れるおっさんという異質な存在が初めから登場することで、あ、これは推理して読むべきではない、物語を楽しむべきだ、と思えたのです。
 終始暗い雰囲気のある物語が、小説の少しずつおかしなところ、例えば先述のようなおっさんや、怖いくらいの正義感を持った幼女、インポの主人公などにより、さらに深みを増しており、まさしく溜池、あるいは底なし沼のようなどんよりした結末に収束していく過程は、個人的に大変好みでした。