花の園

 第七王子と王女は結婚した。

 隣国からの圧力のかけ方には目を見張るものがあり、もし縁談が破談していた場合は戦争になっていただろう。

 周囲からは不思議なことに、王女は悪い魔女の元から帰ってきてからやけに結婚に前向きであった。女騎士からすると理由は明白で、駆け落ちの一件により地位の大切さに気づいたからであろう。


 王女と女騎士は、元々は第一王妃の離宮であった花の園にて今日も秘密のお茶会だ。第一王妃が失脚した後、彼女の所有物はほとんどが王女のものになっている。

「結婚式以降、あまり王子のところへは行かれていないようですが」

 女騎士が最近の気になることを口にすると、王女はふくれっ面で返す。

「それがあの子ったら、あなたの従者を毎日のように部屋へ呼んでいるのよ」

 騎士には関係のない話だが、城の召使いたちの間では第七王子がこの歳で早くも浮気しているともっぱらの噂なのである。

 女騎士は口に運んでいた紅茶を吹き出しかけた。何とか堪えたのは日頃の訓練の賜物だ。

「そうですか、それは。とにかく厄介な従者には厳しく言っておきます」

「別に言わなくてもいいわ。だってそのおかげであなたといる時間が取れるんだから。私にとって、あなたとこうしていられるのが一番幸せなのよ」

 王女は真新しい白いベンチに行き、女騎士を先に座らせる。

 そして、その膝めがけてベンチへ仰向けに転がった。

 今日は本当に空が青い。王女は世の慌ただしさが嘘のように思えてきた。


 二人を取り巻く外の世界は慌ただしい。

 腹違いの従兄弟は虎視眈々と王座簒奪の計略を巡らせ、元第一王妃は地下牢から各地に手紙を出して革命を企てている。

 ブラックウィッチーズ社は株主総会で悪い魔女の退任が決まったものの、悪い魔女は名誉会長として残り、社名をホワイトウィッチーズ社と変えて営業を続けている。

 未来を視ても、あの不味い串焼きを売っていた屋台はやがて食の支配のためファーストフードを名乗り出すし、エルドレア湖では本物の妖精が目覚める予定だ。北の国はそのうち魔王に支配され、第七王子の母国である隣国では王座を巡って血で血を洗うバトルロイヤルが開催される。数えだすとキリがないほど色々ある。

 問題は引きも切らないが、それはまた別の話。


 ここは花の園。

 王女は俗世のことなど忘れ、女騎士の膝枕で穏やかな寝息を立てている。

 女騎士は口元をほころばせ、幸せそうな寝顔を優しく撫でた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

王女と女騎士の駆け落ち 石宮かがみ @isimiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ