女騎士と厄介な従者
女騎士は女性ながらに騎士である。
騎士は戦に出るため男性ばかりだ。そのため女性の騎士は非常に珍しい。
騎士になるための道も険しい。先輩騎士の従者となって修行を積む必要があるのだ。さらには騎士の従者になるために他の騎士からの推薦が必要だという、昔からの慣習に近いルールもある。
女性の騎士は少ないためそのほとんどが王家の女性を守護する王宮騎士だ。そのため彼女たちから推薦を得るどころか、女性の騎士と知り合いになることさえ難しい。そこで騎士になりたい女性には国が推薦人となって女性騎士に紹介するいうのが通例である。
女騎士もまた騎士になった翌年に国から紹介された従者がいる。これが曲者である。なんというか、まるでやる気を感じないのだ。これでは騎士になるどころではないといつも叱るのだが、本人はどこ吹く風である。
今日も従者につける訓練が終わる。相変わらずの手応えのなさに頭を抱えていると、伝令が王女からの手紙を持ってやって来た。
それは王女からの夜の呼び出しだった。
王女の部屋から、人が数人立つのがやっとの小さなテラスに出る。ここでの会話なら夜風のおかげで城内の誰にも聞こえない。秘密の会話をするにはもってこいだ。
「いかがいたしましたか」
心配そうな女騎士の問いかけに、王女は目に涙を浮かべる。
「お見合いをすることになったの」
女騎士は言葉を失った。ついに来るべき時が来たかと天を仰ぐ。
「そうですか。良い相手であれば喜ばしいですが」
王家同士のお見合いに、一介の騎士に口出しができるはずもない。
王女は女騎士の立場を分かってはいたが、それでもこうして立場通りの言葉を言われると涙がボロボロとこぼれ出す。
「そうですか。私は心が引き裂かれそうなほど痛みます」
王女はいつものように女騎士の腰に手を回す。
いつもならここから命令するのだが、今日ばかりは何も言わない。
女騎士は迷った末に抱きしめた。人目も気にせず王女を抱きしめるのだった。
やがて二人がテラスから室内へと戻ったとき、城の外壁に張り付いて聞き耳を立てていた厄介な従者が目を光らせる。
「いよいよ動きますか。こっちはとっくに準備できてますし、まあ遅かったですね」
厄介な従者、その正体は隣国からのスパイであった。
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