悪い魔女の手先

 王女が城を抜け出したのはすぐに発覚していた。

 結婚間近の王女が姿を消したとなれば一大事。城内では王女が探され、すぐに探索隊が組織された。

 だが、実のところ探索隊は出発もできずに足止めされていた。王女がいなくなって特をする第三王妃の差し金である。このままでは内部闘争に火がつくのも時間の問題だ。

 慌ただしい状況の城内にあって、誰よりも落ち着かないのは第一王妃である。

「まさか娘が母を裏切るなんて!」

 隣国に縁談を持ちかけ、それをこちらの娘が逃げ出しましたなんて理由で破談になどしたら取り返しのつかない一生の恥である。

 室内を行ったり来たり足をふみ鳴らしながら、部屋に呼び出した悪い魔女に向かって何とかするよう声を荒げる。

 悪い魔女はいたって冷静に、うやうやしく進言する。

「ワタシは竜を雇っておりますので、そやつに王女を探させましょう。空からの目があればすぐに見つかるかと」

「ではすぐに探させなさい!」

 悪い魔女の雇っている使い竜は事情を飲み込むなり大空に飛び立つ。

 そして風の丘にて、竜は王女を見つけたのであった。



「王女は、私が守る!」

 空から襲ってくる竜に、女騎士は果敢に挑んだ。

 しかし相手が悪かった。

 竜が腕を一振りすれば突風が巻き起こり、その息すら炎となって女騎士に襲いかかる。敵はあまりにも馬鹿げた存在である。

「うおおおおおおッ!」

 雄叫びをあげる女騎士に、使い竜はため息をついた。鼻息がぼっと火柱になる。

 使い竜には負ける要素など最初から微塵もない。

 圧倒的な大きさ、圧倒的なパワー。その鱗はどんな鎧よりも硬く、どんな剣よりも鋭い。

 それは女騎士の持つ装備程度では覆らないのだ。使い竜の攻撃は女騎士の防御など物ともせずに吹き飛ばす。

 哀れ女騎士は頭から大地に突き刺さり、風の丘に立つ逆十字となった。

 その姿に満足した使い竜は、泣き叫ぶ王女を咥えると空へと消えていったのである。

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