第七王子と厄介な従者

 女騎士に置いていかれた厄介な従者は、来賓のために用意された屋敷にいた。

 場所は第七王子に用意された部屋である。重厚な調度品に囲まれた部屋に、第七王子の声変わり前の声が響く。

「なぜあやつは逃げ出した!」

 第七王子は勇敢である。それが子供の無謀なのかは線引きが難しい。

 今、その勇敢さは厄介な従者に向けられていた。

「お前が無能だからだ!」

 忘れてはいけないが、厄介な従者は第七王子の国から来ているスパイなのである。

 本来ならば第七王子には敬意を払うところであるけれども、厄介な従者はどこ吹く風である。

「はいはい、行き先は分かってますからそう怒らないでください」

「無礼な口をくな!」

「そんなにストレス貯めると将来ハゲますって、落ち着くようにマッサージでもしてあげます」

「何をする!」

「ここが良いのでしょうか」

「こら……やめっ……余の頭を撫でるでないっ。——ふあっ!?」

「頭皮のツボは心得ておりますので」

 すっかり悪人顔になった厄介な従者は、第七王子の耳元でささやく。

「ツボは二〇〇個くらいあるわけですけど、どのくらいで落ち着くでしょうかね」

「やめろぉー!」

 マッサージは第七王子が気を失うまで続けられた。

 結局、出発は遅くなった。

 その間に王女は竜にさらわれていた。



「もう町を出たが、余はどこへ行けばいい」

 第七王子は城下町を出たところで馬を止めた。厄介な従者とは心なしか距離を置いている。

「追尾の魔術によりますと魔女のところですね」

「追尾の魔術とは?」

「その者の居場所がいつでも手に取るように分かる術です。まあ夫が浮気をしていないか見張るための魔術ですよ。嫌なやつに使って弱みを握るのにも使えますね」

「そ、そうか」

 あまり深入りしない方が身のためである。第七王子は魔術についてそれ以上追求しないことにした。

「では魔女のところへ行こうではないか。して、それはいずこ」

「山道を行けば看板が見えてきます」

「看板?」

「行けばすぐに分かります」



「なるほど。目立つのう」

 馬に乗った二人は山道を行き、看板にたどり着いた。

 山道に突如現れた真っ黒な看板はおどろおどろしい雰囲気で注意を促している。


『この先、株式会社ブラックウィッチーズ社の敷地につき関係者以外立ち入り禁止』


 奥へと続く道の向こうには、たくさんの煙突から紫色の煙を吐き出す工場が羊の群のごとく立ち並んでいる。

「株式会社とは思わなかったぞ。厄介な従者よ、これは入って良いのだろうか」

「第七王子はよその国の太子、存在が治外法権ですからまあいいかと」

「ならば行かん。魔女から余の花嫁を取り返す」

 こうして第七王子は株式会社ブラックウィッチーズ社に乗り込んだ。門にいた守衛には企業訪問だと伝えた。

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