魔女討伐

「建物だらけだが、余の妃はどこにいる?」

「本社屋っぽいところでしょう」

 厄介な従者は敷地の片隅にある背の高い建物を指差した。二人のいる入り口からは結構遠い。

「馬は門で預けたゆえ、あまり歩きたくないのだが」

「まあまあ、工場見学でもしながら行きましょうよ」

 言われるままに工場の中を覗いてみると、とんがり帽子にボロボロのローブを着た魔女たちが鍋でグツグツと薬を作っている。多くの魔女たちは疲れ果てた顔で鍋の薬をかき混ぜていた。手を休めると監視役らしき魔女が鞭を振るう。時々どこかで悲鳴があがっている。

「地獄のようなところだ」

「大丈夫です。大人っていうのは好きで働いてるんです」

 光のない目で言い切る厄介な従者に身震いしながら、第七王子は王女の居場所を目指した。

 途中、竜がいたので厄介な従者が買収した。竜もまた社会の歯車なのだ。



 気を失っていた王女が目を覚ますと、そこは暗い部屋である。

 動こうにも椅子に縛り付けられており何もできない。部屋には誰もおらず、大声を出しても何の反応もない。

 しばらくすると、不思議な薬を持った悪い魔女が現れた。

「あんまり大声は出さんでおくれ、年寄りの耳は甲高い声が苦手でね。ほら、これを飲みなさい」

「嫌よ。魔女の薬なんて、きっと、まともなものじゃないわ」

「そうとも……これは洗脳薬じゃ!」

 悪い魔女は、王女に無理やり飲ませようとする!

「これを飲めばワタシの言うことをなんでも聞くようになるのじゃ。第一王妃様にはあなたの言うことを聞くようになると嘘をついておいた、ヒャヒャヒャ。これで、この国はワタシのもの」

「いやー! 洗脳されるなんて嫌!」

 王女が必死の抵抗をしていると、先ほど魔女が入って来たドアが再び開いた。

 入って来たのは第七王子と厄介な従者である。

「余の妃を返してもらおうか!」

 第七王子は腰の短剣を抜き放ち、悪い魔女に斬りかかる。

「ヒェヒェヒェ、敵地に乗り込むってことがどういうことか教えてやろうじゃないか」

 魔女が靴の踵をトントンと踏み鳴らすと、第七王子の足元に穴が開く。

「うわあああああ!」

 第七王子は落ちていった。厄介な従者は第七王子を助けるため穴に飛び込む。

 結果、王女を助けに来た者はいなくなった。

「さあ続きを」

「ああ、もう駄目だわ」

 王女がついに観念した瞬間。


「待てい!」


 再びドアが開き、人影が入ってくる。

 竜との戦いでボロボロになった女騎士であった。あの後、空飛ぶ竜を走って追いかけてきたのである。

「悪い魔女め! 王女を返してもらおう」

「はっ、ワタシの雇い主は第一王妃様さ! 王宮騎士のあんたが第一王妃様の意向に逆らうのかい!?」

「まさか王妃が!?」

 驚く女騎士に、悪い魔女は顔を近づけてあおっていく。

「ヒェヒェヒェ。さあ、王宮騎士のあんたに何の権利があるってんだい? ん〜? 言いたいことがあるなら言ってみてごらんよ」

 女騎士は真顔になると、スッと手錠を取り出して悪い魔女の手にかける。

「騎士は強制捜査権と逮捕権を持っているのだ。悪い魔女よ、お前を共謀罪で逮捕する。お前には……黙秘権がある!」

「ヒェ?」

 悪い魔女は逮捕された。結果、執行猶予五年の懲役一五年になった。執行猶予がついたのはひとえに弁護士が優秀だったからだろう。

 女騎士は竜には勝てなかったが、悪人相手にはとても強いのだ。


 こうして悪い魔女は退治された。取り調べの際に名前の上がった第一王妃は牢屋にぶち込まれた。

 世の中は少しだけ平和になった。

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