非命の宰相が語る『三國志』の終焉


三国時代を収束した司馬氏の晋、
史上に西晋と言われる時代の安定は短く、
宗族の内訌による八王の乱とそれに続く
永嘉の乱により河北は匈奴をはじめとする
五胡によって支配されるようになります。

本作は永嘉の乱を引き起こした匈奴の長、
劉淵の宰相を務めた陳元逹、字は長宏が
当時を回顧して語る結構です。
それを聞くのは石勒と張賓、石勒は劉淵の
勢力を引き継いだ劉曜を破って趙国を建て、
史上に石趙または後趙と称されます。
張賓はその知恵袋、いずれも実在の人物
であることは言うまでもありません。

『資治通鑑』のように史実を述べるだけでなく、
作中にはいくつかの仕掛けが施されています。

その一つが、狂言回しを務める陳元逹と同姓の
陳壽の扱い、本作では両者は養父と養子の関係
とされ、そこに安樂侯に封じられた蜀漢の後主
劉禅までが関わってきます。

冒頭に炸裂する擬古文はいささか晦渋、軽めの
文体に慣れた読者は尻込みするかも知れません。

しかし、よくよく読めば難解ではなく、素直に
文意を追えば意味は十分汲み取れると思います。

そこを越えれば会話文に近い文体に転じます。
読む速度も上がるはずです。つまり、冒頭を
じっくり読むのが本作を読む上での要請です。

まだ連載中ですから表題に表されたテーマの
真意は不明ですが、張り巡らされた仕掛けの
行く先に期待して読み進めたいと思います。