愛情というのは性欲に理屈を付けただけ、というのは生物学的に正しい。

理屈ならば、二人の言っていることは限りなく正しいですね。
種を繁栄させるために異性があり、性欲があり、だから交わる。そこに特定の誰かである必要はなく、特定の誰かに対し「愛情」という綺麗事を定義したのは、人間だけですから。

それでも喜美枝さんが一抹の寂寥を覚えるというのは、性欲や本能で片付けてしまう久志くんに対し、やはり愛という感情が欲しいからなのでしょう。誰でもいいと断言する久志くんではなく、喜美枝さんだからこそ抱きたいんだと言って欲しいと。

異様に大人びた中学生です。そういうキャラクターなんだと言われればそれまでですが、恐ろしく哲学的な思考を持っていて、天邪鬼で、斜に構えています。普通に育った家庭環境ではほぼあり得ない人格形成の過程をたどっていると考えられます。
それゆえに「大人が話の都合で設定した歪な中学生像」というメタフィクショナルな観点は否めず(もちろんそれは大衆文学すべてに当てはまるのですが)、もうひとつ何か欲しかった気がします。
久志くんの過去(ウサギの死に対する反応)をチラリと語るシーンなどでちょっと出自を膨らませて、どんな環境で育ったのか、なぜそういう信条を持つに至ったのかなど、人物造詣の深部まで触れてもらえれば、読む側はもっと楽しめたんじゃないかなって。
あるいは、図書室ですから、愛読書などに影響されているとか。有名な哲学書などを手に持たせたり、文を引用して台詞に混ぜたり。そうすれば、彼らの思想の源泉がどこにあるのかが明確になり、読者は入りやすくなると感じました。