第13話 改めて、物語を紡ぐことについて
本日(2018年8月23日)完結の中華風長編「流れる星は暁に抱かれ」は「涼国賢妃伝」の外伝にあたり、連載中から多くの読者さんのご声援を賜ることができた。まず厚くお礼を申し上げる。
さて、作者である私がWEB小説の世界にデビューして1年4か月あまり、フォロワーさん方と投稿サイトやtwitter上で楽しくやり取りしながら活動してきた。
私自身の作風はどちらかというと紙公募・紙書籍向きであり、必ずしもWEB小説向きではないと分析しているが、それでもWEBに掲載するとすぐに反響をいただける、また読者さんとのやり取りの中からヒントを得たり、話が膨らんだり……という、スピード感・ライブ感はやはり何にも代えがたいものがあると思う。
「流れる星は暁に抱かれ」はそのライブ感を作者としても堪能できた作品で、正編の「涼国」の連載中に、
それを他の読者さん方とカクヨム上やtwitterで「ガンダム、ガンダム」とわいわい騒いでいたら、「ガンダムって何ですか?」と興味を持たれた別の方が拙作を一気読みしてくださったのには驚いた。
さらに、私自身も当初は予定になかった主上と星衛の外伝を構想するに至り……と、読者さんの一言をきっかけに化学反応が起き、他の読者さんとのやり取りでさらにそれが大きく膨らんで……という連鎖が起きたのである。一言で言わせてもらえれば、「連鎖反応がとても楽しかった!」のである。まる。
また、別作品の外伝において、かつてある読者さんからこのようなレビューを頂戴したことがある。曰く、「面白い物語とは主人公だけでなく周囲の人物群に魅力があることだが、あまり色いろな人物について書くと物語の軸がぶれてしまうので、それを解決するのが外伝だ」と。外伝の効用について正鵠を得たものであり、今回、外伝を書きながらこの言葉を繰り返し思い出した。
確かに、私は正編を書いているうちに周囲の人物の肉付けができてそれぞれの物語が芋づる式に思い浮かんでくるから、外伝を書くのもまた大好きである。そもそも「涼国賢妃伝」も烏翠国シリーズのスピンオフ小説だった。
ただし、外伝を書くときに注意していることもある。それは、正編抜きで十全に楽しむのは難しいかもしれないが、少なくともそれを読んでいないとわけがわからないというのは避ける、そして、正編既読の読者さんが喜んで下さるようサービスはするが全くの内輪受けに陥らぬよう心がけるということである。
また、「暁」の連載中、物語を紡ぐという自分の行為において、改めて感じたことがある。それは、「自分が現在において持っている関心や問題意識が、作品に意識的に、あるいは無意識に反映される」ということである。それは、遠い空想の世界を描いていても、どこかに私の生きる現代が映されている……ということに他ならない。
意識的に、というのは、たとえば本作でいうと、有り余る詩才を持ちつつも悲劇的な生涯を送った星衛の姉の設定が挙げられる。
これは朝鮮王朝時代の女流詩人・許蘭雪軒(ホ・ナンソロン)を下敷きにしている。当代一の詩人に師事し優れた詩を生み出した蘭雪軒だが、女性の学問が眉をしかめられていた当時の社会において、彼女は婚家でその才能を否定されたばかりか虐待を受け、子を幾人も失うという不幸の末、若くして亡くなった。弟の許イン(ホ・ギュン、ハングルで書かれた最古の小説『洪吉童伝』の作者)によって彼女の遺稿が整理され、それが
最近、女性や性のあり方を巡り、いくつか愉快ならざるニュースを耳にしたので、このような設定を考えた次第である。
次に無意識的に、というのは、作中に出てくる不正蓄財事件を例にとると、不正を行った連中が突き付けられた証拠を前に開き直り、言い逃れたが、それに関し「どこかで聞きましたよねえ」とコメントを頂戴したことである。こちらはそこまで「どこかの事件」を強く意識していなかったのだが、やはり日本の「あの事件」については日頃から不満や疑問を覚えていたので、無意識にでもそれがオモテに出て、小説に反映されたのか、とも思う。
むろんこれら二つの問題は特殊なものではなく、いつの時代にも起こってきたことではあるが、いつの時代にも起きている普遍性と、その時代で起きている時代性の二つが絡み合っているような小説を私はいつも好んで書いているのだな、と自覚した次第である。
ということで、作品を書くたびに読者さんを知り、自分自身をも知ることができる。やはりこれは楽しいの一語に尽きる。
罫線のないノオト 結城かおる @blueonion
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。罫線のないノオトの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます