第12話 『涼国賢妃伝』を書き終えて
ということで、第3回カクヨムコンコンテスト参加作品『涼国賢妃伝 ~~路傍の花でも、花は花』(以下『涼国』と略称)を書き終えた雑感である。ここでお話しすする内容は、本編のネタバレを含むのでその旨ご了承されたし。
そもそも私がカクヨムに登録し、小説を発表したのが2017年の4月下旬であるが、カクヨム内のコンテストに参加するのはこれが初めてとなる。おかげさまで、カクヨム上や連動するtwitter上で、作家さんや読者さんとの交流も増えてきたところ、9月「カクヨムコン3」開催の布告に接した。今後の執筆活動は紙公募を優先しようと考えていた矢先ではあったが、カクヨムさんにはこのように発表の場所を借りていることだし、一度くらいはコンテストに参加し、盛り上げたり盛り上がってみようとエントリーしてみた。
ただ困ったことに、9月下旬から書き始めた矢先、公私ともに多忙極まることになってしまい、執筆時間の確保には12月下旬を待たねばならなかった。「カクヨムコン参戦表明のハッシュタグキャンペーン」で当選し、運営さんから図書カードも頂戴していたので、余計に書き上げなきゃとは思いつつ、一時は規定字数の10万字を読者選考期間内に超えられるか否かも危うかった。
幸い、連載開始と同時にフォロワーさんがつき、応援やコメント、レビュー、twitter上での宣伝のお手伝いなど大きな声援を日々賜り、それを励みにしながらコタツミカン状態で書き続けて毎日更新し、最終的には全70話15万字、読者選考期間終了まで約一週間を残す時点で無事完結することができた。時間的な余裕こそなかったが、楽しく書き続けられたのは皆さんのおかげに他ならず、まず第一に厚くお礼申し上げたい。
さて、次に『涼国』の成立事情とその内容について若干のことを述べてみたい。カクヨムコンのキャラクター文芸部門の募集要項に「後宮を舞台にした中華風の大河ファンタジー」を積極的に求めるとあったので、準備にあまり時間をかける余裕がなかったこともあり、この書きなれている題材を選んだ。次に、同じく要項に「大河」とあったので、大河ものになり得る作品をということで、すでにカクヨムに数作発表している「烏翠国シリーズ」と同じ世界観を用いることとした。
そして、「烏翠国」ものの短編「黒耀の翼」では、太子・興礼の妻となる少女が「路傍の花のごとき」と評されているという一節があるが、
(「黒耀の翼」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883083612 )
そこから以前に構想していたスピンオフ短編を長編に膨らませ、しかも舞台を「烏翠」から同シリーズ「手のひらの中の日輪」のヒロイン宝余の母国である「涼」に移して書くことにした。
(「手のひらの中の日輪」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883732394 )
また、今回はコンテスト参加ということもあり、執筆に当たっての目標を明確に設定した。いままでも執筆するたびに課題や目標は立ててきたが、あるフォロワーさんが毎回はっきりと目標を立てそれをクリアすべく執筆されているのを知って感心し、自分も倣ってみた次第。今回『涼国』の執筆目標とは、大きくは以下の三点である。
(1)中華風ファンタジーにつきものの用語使用は最小限とし(一般的な単語で済ませられるものはそうする)、人物名もなるべく易しいものをつけ、テンポよく読みやすい文章を心がける。
(2)キャラを立てる。以前、紙公募で「キャラの魅力に欠ける」と言われてしまったのと、キャラがこじんまりとまとまりがちだという自覚があった。特に今回、主役である鈴玉の個性をはっきり浮き立たせるのは当然として、それとは別にいちど悪役らしい悪役を書いてみたかったので、薛伯仁なる人物を造形した。
(3)フィクションの世界の中にもリアリティーを感じられるように、そして、読者の皆さんが人物に感情を添わせ、笑ったり泣いたりしていただければ大成功。「あー、あるある」「だよねえ」と時に頷き、時に遠い眼をしながら楽しんでいただく。
書き終えて改めて自作を眺め、必ずしも充分成功しているとは言い難い部分もあると思うが、赤点はクリアできてるのではないか、と自己採点(あくまで自己採点ですからね!)。
さらに、うえの三点を補足するなら、
(1)人名のうち、女官の「
(2)後宮を舞台にした女性主人公、そして求められる「個性的なキャラ」とは。後宮ものの中華ファンタジーの読者は、女性の方が男性より数が多いと思われるが、概して同性のキャラについては厳しくチェックされがちというのは、今までの経験上もわかっている。
かつ、主人公の鈴玉は、根はまっすぐで優しい気性の持ち主とはいえ、物語冒頭では怠惰で横柄な不良女官ぶりを思い切り見せているわけで、魅力的な人物と思っていただけるか否か、正直言って作者もはかりかねる部分はあった。また一般的に、彼女の年頃は成長曲線が急カーブを描くとはいえ、不良女官のスタートからから王妃へのゴールを不自然なく書かなくてはならない、という難しいミッションもあった。
しかし実際に蓋を開けてみると女性男性問わず、多くの読者さんに彼女を応援していただくという幸せなヒロインとなり、作者もほっと胸を撫でおろした。
また、彼女以外にもレビューで本作のキャラクターを「個性ある登場人物」と評してくださった方が複数おられ、とても嬉しかった。
(3)できれば自分の書くものは、読み捨てではなく再読して欲しいと、そしてたとえ空想の物語でも、現実感やツッコミどころなどの余地や余白を持たせておきたいと思っている。また、本作は、怪力乱神や特殊能力が出てくるわけではなく、あくまで人物の個性と彼等がおりなす人間関係でもって物語を引っ張っていかなくてはなならない。あらすじの惹句に「笑いと涙の中華ファンタジー」と謳ったが、読者さんが鈴玉たちにツッコミ入れたり、彼らと一緒に泣いてくださったので、あらすじ詐欺にならなくてよかった、とこれまた安心した(心配してばかりの作者ダネー)。
次に、作品の世界観や制度について付言しておく。
前述のように「涼国」の世界観は「烏翠国シリーズ」と共通であり、世界の中心に天子が君臨する「天朝=華」があり、周辺諸国はその冊封を受けている。また、諸国には一字国と二字国の区別がある。
涼国の諸制度や風俗は歴代中国および朝鮮王朝の制度を混淆させて構成している。服飾に用いる言葉については、たとえば短い上着とスカートの組み合わせは「
また、「冷宮」など、本来の意味とは少し違えて使っている用語、「禁衛府」は日本の皇宮警察の前身など外から引っ張ってきている用語も若干ある。
あとは、課題のようなものも。
実は、いつものことながら大枠だけ決めて頭のなかにプロットを置き、詳細な設定を紙にしておくこともせず書き始めたのだが(面倒くさがりでせっかちなため)、当初の予想より登場人物も増え、話も膨らんでしまい当初の10万字予定が1.5倍のボリュームになった。書きながら固めていった部分も多いのだが、読んでて安定感のある構成にしたかったので、人物やエピソードを対称的に配置したり、同じような場面を用いつつそれを少しずらしていく(鈴玉が香菱に「痛い」と叫ぶ場面や、物語の最初と最後が同じ場所である)などの古典的な方法を使った。そんなこんなで、とりあえず伏線も漏れなく回収し、目につく破綻もなく物語を終わらせることができたと思うが、いつかより大部な長編を書くときは、苦手とする紙でのプロット作りにも取り組まなくてはいけなくなるかもしれない。
そして連載の間、更新する度に見てくださって感想を下さる方、鈴玉のとても可愛らしいファンアートを描いてくださった方、クライマックスで泣きながら読んで下さった方(最初から決まっていた展開だが、書いているとき作者もウルッとしてしまったのは内緒)。そうそう、キャラに楽しいアダ名をつけてくださったというのも嬉しかったですね(ゴッツイ武人「星衛=ガンダム」で、フォロワーさん間に定着したのが最大のヒット)。もとからの常連さんはもちろん、今回のコンテストを通じて知り合ったフォロワーさんも多数おられ、嬉しい出会いとなった。
ともあれ、さまざまな思いを込めて書いた作品を、さまざまな思いを込めて読んで下さる……連載期間中、楽しく過ごさせていただき作者冥利に尽きます、本当にありがとうございました。
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