第11話 『戦場を渡る蝶』を書き終えて

 中華風の世界観に基づく烏翠国のシリーズも、本作をもって長編2本・短編3本となる。この間、読者さん・フォロワーさんも増え、コメントや応援、レビューまで賜り、書き継いでいく大きなモチベーションとなっている。本当にありがたいことである。


 さて、本作『戦場を渡る蝶』は、シリーズ長編『翠浪の白馬、蒼穹の真珠』の番外編に位置づけられる。主人公は弦朗君で、『翠浪』の女主人公レツィンの兄であるサウレリの眼を通して描いている。

 実は弦朗君を主人公とした長編は次回作に予定されたものがあり、これもその一部に組み込もうとしていたのだが、全体とのバランスを鑑みて、独立した一篇にしたほうが読みやすく感じたので、このような形で皆さんにお目にかけた次第。

 

既に『翠浪』では、弦朗君がかつてラゴ族との紛争のさなか、サウレリと知己となったこと、また二人が親しい間柄であることを匂わせてはいたが、今回は敵対する立場での二人の邂逅と友情、そして苦さの残る別れを描いたものとなっている。


 そう、テーマはずばり「男の友情」。勇猛果敢で情に厚いサウレリ、一見穏和だが芯は強い弦朗君。外貌も性格も対照的ではあるが、若くして重責を担う二人の心の共鳴と、立場の違いゆえの葛藤を描きたかった。

 ではあるが、女性の書き手が男性の感情を書いたわけで、上手く描けたかどうか、男性にも違和感なく読んでいただけたかどうかは自分ではわからない。ということで、女性読者はもちろんのこと、特に男性読者のご感想をお聞かせねがえれば幸甚である。「こんな男の友情、ないわーw」といった感想でももちろんヨシ、今後の参考のために是非。


 若干自分でも「どうかな?」と思ったのが、サウレリに対する弦朗君のポジションが「ヒロイン」ぽくなってしまった点である。攫われたピーチ姫のような立場であるし、クライマックスなど、「やめてー!私のために争うのはやめてー!」状態となってしまっている(笑)。…それとも、私の気のせいだろうか、きちんと男っぽく彼を描けただろうか。


 最後に、本作に関連するイメージとして私が思い浮かべていた、一人の人物、二つの詩をご紹介しておく。


 一人の人物とは、若き天才と謳われながらも、日中戦争のさなか中国戦線で戦病死した映画監督の山中貞雄である。私の大好きな監督の一人で、現存するフィルムはわずか3本、しかし彼の優れた仕事やきらめく才能は、これらの中からも充分に窺うことができる。軍隊での上官が山中を評して曰く、「軍隊のなかにフラリと紛れ込んだ着流しの男」と。サウレリが戦場での弦朗君を評するときのイメージは、これに由来している。


 そして詩とは、安西冬衛の一行詩「てふてふが一匹 韃靼海峡を渡つて行つた」と、それへの返しともいうべき辻征夫の「《蝶来タレリ!》韃靼ノ兵ドヨメキヌ」である。戦場を渡る弦朗君=若草色の蝶、そして韃靼=ラゴ族、とこれらの詩に重ね合わせてイメージされている。


 次回の烏翠国シリーズは、時代を移した長編でカクヨムコン参加を兼ねたものである。私生活のほうとの兼ね合いで、締め切りまでに書けるか怪しくなってきたのではあるが、何とか頑張って執筆したい。

 



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