第10話 『手のひらの中の日輪』を書き終えて

 ということで、長編『手のひらの中の日輪』(以下『日輪』と略称)を書き終えた後の雑感である。以前は「語りたいことは作品だけで語れば十分!」と厨二病よろしく息巻いていたもので、今でもその気持ちには変わらないのであるが、自分の備忘録もしくは、同じもの書きさん達のご参考に供することが少しでもあれば幸い、などと言い訳して、以下に認める次第である。例によって、「作品だけで語れ」主義を守っておられる方、『日輪』のネタバレNGな方は回れ右されたし。


 私はこれまで、烏翠という中華風な架空の国を舞台に何本か作品を書いてきたが(そろそろシリーズ名をつけてあげなくてはね)、もとは大昔に構想されていた物語を順次小説化している次第である。『日輪』はそのなかでも最初に出来た話であるが、ネットに掲載したのは『日輪』のスピンオフとして成立した『翠浪の白馬、蒼穹の真珠』が先となり、発表順序が入れ替わった。


 物語を構想してから実際に小説の形で皆さまにお目にかけるまでかなり時間が開き、私も多少は社会や小説書きにおける経験を積んでそれらが作品に反映され、当初の構想とはまた違ったものとなっているのは当然である。

 ただ、一度は書き上げた本作を改稿のため再度向き合ったときに違和感を感じる設定があった。宝余が話す「上龍華語」の設定がそれである。「シリーズの根幹にかかわるような設定だし、外すのもねえ…まあ、大丈夫かな」とそのまま書き進めていき、ネットにも掲載した。だがどうにもこの設定がひっかかり、これが出てくるといつものように「つるつる書ける」ような感触が得られなかった。物語の流れのなかに置いてみると、座りが悪く感じてしまう。自分に正直に問うてみると、大昔に構想したときには「良い、大丈夫」と思う設定も、今は「逡巡せざるを得ない」というのが答えだった。


 そして、フォロワーさんからのご感想や、友人達との本作に関する語らいをきっかけにし、再度自分でも考えてみた。特に作品を読んでくれた友人達が設定を外すかどうかウダウダ考えてる私に「その設定は本当に必須なのか考えてみたら?」、「むかし考えて愛着がある設定なら、悩む気持ちもわかるよ」と言ってくれたのが助けとなって、数日間うーん、うーん、と唸っていた。

 自分はこのシリーズを架空歴史とファンタジックな要素をブレンドして世界観を作り書いてきたのだが、そのブレンド具合を見てみると、以前構想していたよりも、今書いているものはかなり歴史小説寄りになっていたようである。

 すでにシリーズ内の先行する作品『翠浪』『黒耀の翼』で「神様」など人外の者を出したのではあるが、そうしたファンタジックな要素のなかでも「上龍華語」は浮いて見えたのである。

 もちろん、この設定を生かしたまま作品を書くこともできたとは思うが、「なくても大丈夫そう、大まかな話の流れは何とかなる(シリーズ全体のオチは決まっていて、これは現時点では動かさないつもりである)」という結論に達し、上龍華語の設定を外して改稿・再掲載することにした。

 ひょっとしたらこの設定を気に入ってくださった方もいらしたかもしれず、また最終回直前での改稿ゆえに読者の皆さんにはご面倒ご迷惑をおかけすることになったが、上述のごとく考えた結果であり、ご了承くだされたく。


 そんなわけで、作ってから時間が経った設定やキャラに愛着がわくのはもちろんだが、書いていてひっかかりを感じたら再考すべし、納得が行くまで書き直すべし、というのが今回勉強したことである。

 

 この問題のほか、『日輪』は『翠浪』と比べて手を止めて考える時間も増えたが、もちろん悩んだだけではなく、『翠浪』と異なり物語の舞台が主人公に合わせて移動していくので、話の山や谷を作りやすく、それらは楽しい作業であった。また、ヒントを出しつつ正体を伏せた某人物の再登場にフォロワーさんが驚いてくださったときは、「やったね!」とニンマリもした。


 さて、『ノオト』第9話でもお話しした通り、このシリーズはあと数作書くことになった。宝余に関する予言や王宮の地下の秘密など、『日輪』で張った伏線はいくつか回収されずに残っているが、それは後の作品で解き明かす予定である。既に宝余と顕錬の運命の行方について予想しておられる方もあろうが、果たしてその予想通りになるかどうか……ニンマリ。

 

 次回の本シリーズ作は、時代がまた前後し、弦朗君を主人公にして『翠浪』と『日輪』の間の時代を描く予定である。私は一度最後まで書き上げて、あるいはある程度ストックを溜めてからネットに掲載するスタイルを取るため、しばしお待ちくだされたく。


 最後に、更新のたびに追いかけて下さったフォロワーの方々、長い物語にお付き合いくださった読者の皆さん、本当にありがとうございました。執筆に心強い伴走者を得ることができ、厚く御礼申し上げます。

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