手のひらの中の日輪

作者 結城かおる

15

5人が評価しました

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★★★ Excellent!!!

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宝余(ほうよ)は、涼国の公主として、隣国・烏翠(うすい)の王・顕錬(けんれん)のもとへ降嫁することになった。顕錬は、烏翠では国を滅ぼすと噂される「紫瞳の国主」だった。国同士の政略とはいえ、宝余を迎える烏翠王宮の対応は冷たい。極めつけに、夫である顕錬には、新床で刀を突きつけられてしまう。それは、宝余の抱える秘密を、見破られたせいなのだがーー

すれ違う宝余と顕錬の心。やがて謀叛を疑われた宝余は、王妃としての地位を奪われ、幽閉されてしまう。心理的に追い詰められるが、なお自己を保とうとする彼女に、さらに過酷な運命が襲いかかる。

中華風異世界FTは、文化的な描写や用語が難しいと感じる方も多いでしょうが、本作はするすると読めます。何より、ヒロインの宝余に次から次へと降りかかる苦難に、終始ハラハラさせられました。想像するだに過酷な状況ですが、常に顔を上げて進んでいく宝余に、力づけられます。最後は、彼女と顕錬と、この国の未来に希望を感じる結末で、ホッとさせて頂きました。緊張感があるからこそ、読後感は爽やかです。

個人的には、忠賢が好きです。彼と宝余の将来をちょっと期待しました。技芸を生業とするこういう集団の在り方には、民俗学的な興味を惹かれます。

★★★ Excellent!!!

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主人公の宝余は、強いひとだ。

別に、クマを倒せるとか一日で千里を走るとか、そういうことではなくて。
平穏な暮らしを終わらせられても、嫁いだ先で理不尽な仕打ちを受けても、必ず前を向き直る。

そんな、心の強いひと。

だからこそ、危機は必ず何とかなると信じてーーあるいは、もっとひどい目に遭うのではないかとハラハラしてーー読み進んでいける。


王宮の一番奥から、虎が住まっていそうな山奥まで。物語は国中を巡る。
そして最後は、王宮の奥で幕を下ろす。
大きな大きな流れの中のほんの一部にしか過ぎない、宝余が生きる場所に真っ直ぐ立つまでの物語。
目の前に広がる風景と人の顔、続いてきた営み、情の数々。細かなところまでじっくり味わえます、是非どうぞ。


そんな物語のタイトルを、最初はふんわり優しげだなーと思った。
実際のところ、物語の中ではとあるアイテムをそう呼んでいる。だけど、ほんとうにそれだけかしら?
日輪が何を指しているのか――最後まで読み終えた今、ニヤニヤしている。

★★★ Excellent!!!

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17歳の宝余が海辺の涼国から隣国烏翠の若き国君のもとへ
公主として降嫁するところから、運命の物語の序幕が上がる。
それはただ後宮を舞台にした恋物語や陰謀劇にはとどまらず、
烏翠の国を挙げた擾乱を引き起こさんとし、なおも続いていく。

宝余の秘密を見破った国君の顕錬は、新妻に剣を突き付ける。
此度の2人の婚姻には、初めから情など存在していないのだ。
数年前に両国間に軍事衝突が起こり、破れた烏翠は今だ弱く、
強国から輿入れした宝余に向けられるのは冷たい対応ばかり。

冷たい対応はまた、即位から間もない顕錬にも向けられている。
否、彼への冷遇は幼少のころ、その瞳が紫色に変じた日からだ。
烏翠の伝説では、紫瞳の君主は不吉の兆候、あるいは昏君の証。
虐げられて育った彼は、気遣う宝余にも心を開こうとしない。

胃が痛み息が詰まるような後宮の暮らしは、突如終わりを告げ、
宝余はいずことも知れぬ場所で文字通り「放出」されてしまう。
こんなところで死ねるものか、と奮起した宝余は歩き出す。
生半ならぬ道を越え、冷たい夫と巨大な奸悪の待つ王都へと。

物語に触れてまず感じるのは、世界観・設定の堅固さだろう。
四海天下の中心には華朝(天朝)があって周辺諸国を冊封し、
諸国は華朝に朝貢し、華朝より勅を賜り、華朝の文化を受ける。
国々のそうした歴史的・社会的背景が物語の骨格を固めている。

東洋史学をベースとする情報量の多さと細やかさに圧倒される。
私もまた東洋史畑の産物だが、著者の目配りには到底敵わない。
といっても、その膨大な情報は決して押し付けがましくはなく、
毅然とした文章によって的確にサラリと描かれるから好ましい。

聡明で度胸の据わった宝余が身分を隠して国都へ向かう道程は、
胸躍る貴種流離譚でもあって、きっと読者の性別を選ばない。
異世界系ラノベや甘いばかりのラヴファンタジーに食傷ならば…続きを読む

★★★ Excellent!!!

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 作者である結城さんの作品を読むと、素晴らしい描写な点が当たり前すぎて、こうしてレビュー書こうとする際で毎回触れる私は馬鹿なのかと思う。

 だが、結城さんの作品に初見の読者も居るので、やはり触れるべきと考えている。独特の世界観を、少ない説明と豊富な語彙、そして世界観に沿った台詞で読者へ印象深く伝える力を、この作品で味わっていただきたい。

 次に、この作品で綴られる世界観でシリーズ化されるらしいと考えたとき、十二国記の「月の影 影の海」を思い出しました。内容が似通ってるということではなく、男性作家なら本編の前振り段階にして、さあ、これからだという部分を一つの作品とする「潔さ」に同じものを感じました。

 これは結婚観の違いによるものなのか、それとも性差によるものなのか判りませんが、男性でしたら作品世界で示されてる諸々の問題を解決させようとし、そこまでを一つの作品として書いてしまうだろう。
 でもこの作品はそうではない。物足りないというのではない。十二国記がそうであったように、この作品も読者を十分に満足させてしまう点に驚いている。

もちろん物足りなさを感じる方も居るだろう。
でも、その方はきっとこの作品の次を待ち望む。
それだけの魅力がこの作品にあるからだ。

 主人公が、一生添い遂げる覚悟と愛情を持って王妃になるまでのストーリーが、この先の作品への飢えを引き出す魅力。
 是非、その魅力もまた十分に味わっていただきたい。