〈十五〉怪盗とエピローグ
数日後、学内の掲示板の前を通ると、ひとりの名前が掲示されていた。
前山田友仁の名前と、そしてその横に、一週間の停学の文字が並ぶ。
その事実に、特に興味はなかった。
あの日、捨てろと進言したSDカードを捨てずに持っていたのだな、と容易に想像がついたからだ。
馬鹿だなあ、と思う。あの時捨てておけば、あの日の朝、全校で実施された抜き打ちの持ち物検査に引っ掛かったりはしなかったのに。もっとも、あのデータがあったところで試験問題は作り替えられているのだから、正直役に立ったとも思えないけれど。
「あら、幸大」
聞こえた声に向くと、廊下の奥から直生さんが近付いてくる。直生さんの晴れやかな表情を見る限り、この張り紙の件はまだ知らなさそうだ。
道中でクラスメイトか何某かに声を掛けられ直生さんの足が止まるのを見て、僕はすぐに掲示物へと手を伸ばす。ちょうどその横にあった、片側の画鋲が外れてぷらぷらと頼りなく揺れていたサッカー部員募集の張り紙を移動させ、前山田友仁の名が記された紙を覆い隠してしまう。臭いものには蓋をしろとはよく言うが、醜いものにもやはり蓋なのだ。
画鋲を押す指に力を籠めたところで、直生さんの足音が近づいてきた。
「何をしていたの?」
無邪気に問う直生さんを見下ろして、僕はわずかに口許を緩めた。
「――張り紙が取れそうだったので、張りなおしていたんですよ」
余談だが、僕は、唯一無二の僕のお嬢さんのためならば、命も、善も悪も、他人も、すべてを売ると決めている。
怪盗はいからの備忘録 濱村史生 @ssgxxx
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