職業魔王にジョブチェンジ~周りは妥当だと言い張ります~
黒水晶
第1話プロローグ1
拝啓、女神様、小雪のちらつく日もある昨今ですが、いかがお過ごしでしょうか?
さぶさが厳しくなってきているので風邪をひかないよう、御自愛下さい。
私は今、しんしんと雪が降り積もる雪原にいます。なぜかって?私にもわかりません。
辺りから獣の様な鳴き声が聞こえてきます。
冷たい風邪が私の体温を容赦なく奪い去っていきます。つまり、ピンチです。転生して気がついたらここにいました。ピンチはチャンスと言いますが、生まれたてのこの体では何も出来ません。ピンチはどう転んでもピンチです。
女神様、こんな世界滅んで当然と言うか、自然の摂理だとおもいます。
◆◇◆◇◆
「大変ですクレア!!」
そう言いリビングの扉を勢いよく開けて入ってきた一人の少女。
少女は腰下まである艶やかな金髪を振り乱し、恐怖からか普段から色白な肌が余計に白くなっている。
「どうした?そんなに慌てて?」
少女に呼び掛けられたクレアことクレアシオンは、やっていた将棋盤から目をはなし、事情を聞こうとする。
「ま、魔王が
クレアシオンは何を言ってるんだ?と怪訝な顔をし、やがて理解したのか少女に笑顔を向け、
「はぁ~、だから言っただろ?台所周りはきちんと掃除しろって」
と、いいクレアシオンが将棋盤に目を戻すと王将が全ての駒に囲まれていた。そう全てだった。
味方にも囲まれる様子は、まるで本能寺的な変のを思わせる。
信頼していた家臣に裏切られた王将。彼には「金将、お前もか!?」と、言っているようだ。
クレアシオンは、「ああ、将棋にも人望が必要なんだな~」「大事だよな、人望」と、何処か遠い目をしていた。
クレアシオンは、将棋を通して世の中の不条理や人間関係の難しさを改めて学んだ。
一方、少女はというと、はぁ~、しょうがないなぁ、と言いたげなクレアシオンの態度に少女のこめかみに青筋が浮かぶ、先ほどまでこの世の終わりのような顔をしていたのに、今では怒りを抑えるのに必死になっていた。
「ち、違うんです‼」
「ああ、わかっている、皆まで言うな、今Gジェットを持っていってやるから、そんなに慌てるなって」
「違うんです‼だから魔王が
と少女は必死に「落ち着け私、怒ってはだめ、話が進まない」「落ち着け、落ち着け~」と怒りを抑えているが、
「ああ、
この男は何もわかっていない。少女の中で何かが切る音がした。
「だから、違うって言ってんでしょうがぁ~!!」
「グハッ!?」「カラン、カラン(Gジェット)」
ついに少女がキレた。鋭い拳がクレアシオンのみぞおちを穿つ。その一撃は、その少女の小柄な体型からは想像出来ない威力が出ていた。
おそらく今までのやり取りのストレスが溜まっていたのだろう。いや、そうに違いない。
急所に鋭い一撃をもらった彼の右手の中にあったGジェットが滑り落ち、カラン、カランと乾いた音をたてる。
「まあまあ、アリア様落ち着いて下さい」
と、怒りにぷるぷるとふるえるアリアの頭をなぜながら落ち着かせるのは、クレアシオンと将棋をして、彼の駒をたらしこんだ美女だ。今までのやり取りを笑いを押し殺しながら見いてた女性「くっ、ふふ」いや、殺しきれていなかった。
女性は口元を手で隠しているが隠しきれていなかった。
その女性は長い銀髪を簡単なハーフアップにしていて、前髪から覗く、その芯の強そうな蒼い瞳は少し潤んでいる。
「よしよし、落ち着いて下さい」
「イザベラ~、クレアがクレアがぁ~」
今度は泣き出してしまうアリア、イザベラがアリアを抱きしめるとアリアの顔がイザベラの大きな双丘にうもれてしまう。
アリアの涙の意味が変わったのは気のせいだろうか?
この間、この空間を支配したのはすすり泣くアリアの泣き声と、痛みに蹲るクレアシオンの呻き声、コロコロと転がるGジェットの音だけだったと言う。
カオスである。
◆◇◆◇◆
「それで、何があったのですか?」
アリアが落ちついたのを見計らって話を聞き出そうとするイザベラ。いまだに腹を抑えて蹲るクレアシオンは空気のようになっていた。
「俺の心配はしないのかよ」
「さっきのは貴様が悪いからだろ。正座しろ」
不満を言うクレアシオンに冷たい視線を送り、正座させるイザベラ。先程までの優しさ等ない。
なぜなら、クレアシオンが悪いからだ。
「クレアのことは話が進まないので、放っておきましょう」
「わかりました。でもクレア、あなたの力が必要になるので、ちゃんと話しは聞いといて下さいね」
ね?ちゃんと聞いてくださいね?っと言ってくるアリア、放置しようとして、力が要るから話を聞けと言う。つまりは、拒否権はないと言うことだろう。無茶苦茶を言ってるようだが、クレアシオンが悪い。
「実は………
長いのでアリアの話しをまとめると、ここ数週間、報告のあがっていない世界があったと言う。
世界は数え切れないほど存在し、それぞれの世界には何かあっても、すぐに対処するために、数人の神が管理している。
過去に悪神と邪神が手を組み、魔王や悪魔を生み出し、人々と争わせ、悪魔から信仰を、人々からは絶望と信仰を集めるという事件があったからだ。
悪神と邪神の手に堕ちた世界は悪意と絶望が蔓延り、悪魔や魔王、邪神が生まれ安くなっていた。
このことから、世界を数人の神が管理をし、神の裏切りや、世界が邪神の手に渡るのを防ぐため、簡単な報告を毎日神界に提出することが、義務づけられていた。
報告の上がっていないことに気がついた神界の神々が調査したところ、その世界全体が、障壁に覆われていたらしい。
障壁のせいで、その世界からは連絡がとれない状態になっている。そのせいで、その世界からは連絡がとれず、報告が出来ないでいたのだ。
連絡がとれてわかったことが、悪神が1人、邪神が少なくとも5人いて、すでに悪魔や魔王が大量に生まれているということ、気がついた神たちは神界に助けを求めることもできず、魔王たちと戦ったが、数の暴力に負けてしまい8人いた神は一人の女神を残し、全滅したという。
魔王や悪魔は人々の負の感情から生まれ、彼らの信仰から邪神は生まれる。
悪神とは、神界を裏切り堕ちた神であり、悪神と邪神は魔王と悪魔を生み出す。
現状、神は一人しかおらず、魔族は増え続けている。最悪の状況だった。
今、創造神の神殿では、多くの神や天使-神の眷族や神の手伝いをする者たち――が対応に追われている。
アリアから話しを聞いた二人は黙ってしまった。
イザベラはうつむき、唇を噛み締めている。握った拳には力が込められていて、肩が少し震えていた。
イザベラは過去の事件の被害者だ。悪神と邪神のせいで故郷を失っている。その時のことを思い出してしまったのだろう。
辺りを静寂が支配する――。
「それで、俺の力が必要ってどういうことだ?」
沈黙を破ったのはクレアシオンだ、先程までのふざけた態度は霧散していた。
「はい、クレアにはその世界に行き悪神と邪神を倒して欲しいのです」
と、目的をいうが
「障壁のせいで、力の大きな存在は行き来できないんじゃなかったか?」
そう手段がないのだ。敵の元まで届かなければ、どんなに力があろうとも何もできない。
「いえ、邪神たちも障壁を完全には張れなかったのでしょう……。魂や実体の無いものは行き来できるようです。……そこで、クレアには、その、一度死んでもらい、その世界で転生して欲しいのです」
言いずらそうに話すアリア。当たり前だ、親しい人に死ねなんて、そう簡単に言えるわけがない。しかも、転生して何ができるというのか、弱体化した状態では何もできない。
それこそ、敵の罠かもしれない。
「なあ、アリア」
クレアシオンが声を掛けるとビックっとするアリア。
「どうして、俺が見ず知らずのやつのために死ななくちゃいけない?」
「それは……」
アリアは何も言えない、しかし、彼女にも引けないなにかが有るようにクレアシオンには思えた。
「他に方法がないのか?」
「――ありません……」
「そうか……」
他に方法がないか、と聞いたとき、彼女が少し迷ったようにみえたのをクレアシオンは見逃さなかった――
辺りは再び、静寂に包まれる。
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