身につまされる親近感。「卓越自宅警備員」すら実在するらしくて。

浮世離れしているように見える象牙の塔も、内実はそうでもない。
いかに予算を獲得できるかが、優秀な研究者で居続ける要件だ。
文科省の政策で「役に立たない」分野の研究費は削減傾向にあり、
少子化とも相まって、日本の研究界はどの分野も元気がない。

そもそも日本の大学が持つ研究費の規模は、アメリカの約1/10。
アメリカは、政府の予算が大きい以上に大富豪からの寄付がある。
その潤沢な資金を求め、世界トップ層の研究者がアメリカに集う。
科学のあらゆる分野でアメリカが独走するのも当然のことだ。

T大は、日本の中では予算に恵まれた研究機関の1つと言える。
それでも、スタッフの任期制度を巡る問題は予てから深刻だ。
政府が付け焼き刃的に新たな予算や制度を打ち出したりもするが、
結局、改善は成らず、職を追われる研究者が出てしまっている。

前置きが長くなったが、本作はそんな研究の世界を描いている。
唐突に研究室の解散が決まり、「卓越」の研究費を得るためには、
別の教授のもとで、自分のやりたいテーマを続けるしかない。
途方に暮れるラボ見学の後、どんな院生生活が待っているのか。

私は関西の(私立ではない)K大繋がりで、研究者の知人が多い。
学振などの予算獲得に頭を抱え、ポストの空きに一喜一憂し、
「再生医療ばかり予算が出るのは不公平だ」と愚痴を言う。
そんな彼らが身近なので、本作はもう全力で応援してしまう。

私自身はアカデミックの世界に属してはいなくて、復帰希望中。
学部の頃から某教授と喧嘩を繰り返し、休学を経つつ修士を出て、
博士まで行きたかったが、やっぱり喧嘩して飛び出してしまった。
某教授はもう退官したから、あの場所に戻って論文を書きたい。

さて、国立大学のリアルを描く本作、主人公の佐々木は今後、
どんな研究者と出会って「超伝導」のテーマを詰めていくのか。
ドキュメンタリータッチの乾いた作風で、用語説明も読みやすい。
佐々木の進路と筆者の執筆を最後まで応援していきたいと思う。




しょうもない追記。
先日、例の研究者系メンバーとカラオケに行った。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『フラッシュバック』に
「細胞分裂が2の累乗じゃない40倍ってどういうこと?」
「摂氏零度で超伝導が起こせたらノーベル賞ものやろ」
などとマニアックな暴言を吐きつつ、
「この疾走感、やっぱり名曲!」
「初期アジカンのドラム、カッコよすぎ!」
と、めちゃくちゃ盛り上がった。
このコミュニティの空気、伝わるでしょうか?

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