物性理論大学院生の日常〜研究室は解散しました

作者 新井パグナス

156

54人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

 自分自身も理工系学部の学生でしたが、聞き覚えのある話題が豊富で共感しながら読みました。SF小説などで出てくる「研究者」のような印象とは違い、より現実に近い研究室の日常を描いていると思いました。
 自分はお世辞にも優秀な学生とは言えず、修士を追い出されるように卒業した人間ですが、博士を経て研究者になる主人公の物語はとても興味深かったです。具体的な地名などが書かれていたのも、場所をイメージしやすくて良かったと思います。
 小説の文章も読みやすく、出来事を淡々と描いているようで、主人公の成長物語の要素もあり、地味に思われそうなテーマを面白くする技術が凄いと思いました。

★★★ Excellent!!!

 k大理学部生です。超電導など、物性の研究をしたいと思っています。この小説は、たまたまネットで見つけたのですが、一気に読み切ってしまいました。ところどころに現れる、格言が心にしみました。実験か理論かもまだ決めていないのですが、理論を選んだ時の自分の将来を具体的に考えるための一つの素材になりました。
 主人公の博士課程での研究内容について、修士課程に比べて、ほとんど触れられていなかったのは、ちょっと残念でしたが、一般向けにはこれで良いと思います。

★★★ Excellent!!!

リアリティ溢れる日本の研究室の実情が描かれています。

大学院生修士課程1年生の佐々木透が指導教官の猪俣准教授から
「研究室の解散」を告げられるシーンから物語が始まり、
「グローバル卓越大学院制度」を維持するべく佐々木は奔走するのだが……。

この研究室の解散により、佐々木は結果として新しい局面で成長をしたのではないでしょうか。
窮鼠猫を噛むではないですが、窮地に立たされて初めて佐々木は
自分の可能性を知ったかもしれないと思いました。

とても楽しく拝読させて頂きました、更新がんばってください♪

「グローバル卓越大学院制度」とは、
文部科学省が発案した、大学院生の研究生活向上のための制度。
申請が通った特定の大学の大学院の学生は、
学内審査によって選ばれることで「グローバル卓越大学院生」となり、
修士課程2年生から月額22万円が支給され、学費が免除される。
条件は、博士課程に進学して博士号を取得すること。
形式上は貸与の形を取っており、博士号を取得することで
初めてその返還が免除される、という制度だった。
(本文より抜粋)

★★★ Excellent!!!

浮世離れしているように見える象牙の塔も、内実はそうでもない。
いかに予算を獲得できるかが、優秀な研究者で居続ける要件だ。
文科省の政策で「役に立たない」分野の研究費は削減傾向にあり、
少子化とも相まって、日本の研究界はどの分野も元気がない。

そもそも日本の大学が持つ研究費の規模は、アメリカの約1/10。
アメリカは、政府の予算が大きい以上に大富豪からの寄付がある。
その潤沢な資金を求め、世界トップ層の研究者がアメリカに集う。
科学のあらゆる分野でアメリカが独走するのも当然のことだ。

T大は、日本の中では予算に恵まれた研究機関の1つと言える。
それでも、スタッフの任期制度を巡る問題は予てから深刻だ。
政府が付け焼き刃的に新たな予算や制度を打ち出したりもするが、
結局、改善は成らず、職を追われる研究者が出てしまっている。

前置きが長くなったが、本作はそんな研究の世界を描いている。
唐突に研究室の解散が決まり、「卓越」の研究費を得るためには、
別の教授のもとで、自分のやりたいテーマを続けるしかない。
途方に暮れるラボ見学の後、どんな院生生活が待っているのか。

私は関西の(私立ではない)K大繋がりで、研究者の知人が多い。
学振などの予算獲得に頭を抱え、ポストの空きに一喜一憂し、
「再生医療ばかり予算が出るのは不公平だ」と愚痴を言う。
そんな彼らが身近なので、本作はもう全力で応援してしまう。

私自身はアカデミックの世界に属してはいなくて、復帰希望中。
学部の頃から某教授と喧嘩を繰り返し、休学を経つつ修士を出て、
博士まで行きたかったが、やっぱり喧嘩して飛び出してしまった。
某教授はもう退官したから、あの場所に戻って論文を書きたい。

さて、国立大学のリアルを描く本作、主人公の佐々木は今後、
どんな研究者と出会って「超伝導」のテーマを詰めていくのか。
ドキュメンタリータッチ… 続きを読む