何度でも駆け付けよう。あのときの気持ちを嘘にしたくないから。

序盤に書いたフレーズをラストシーンにも流用する(それでいて最初とは少し違った印象を与えるよう演出する)、というのは効果的な文章作法として有名ですが、それがピッタリ嵌まった素晴らしい構成でした。

ここ一番の行動力だけは定評がある主人公。
場に流されて受動的な生活を送るも、踏みとどまらなければいけない土壇場だけは根性を見せる。

私事ではありますが、遠距離恋愛の苦さを実体験している身なので、作中の別れ話に至る過程は本当に読むのが辛かったです。
現実には、一度別れたら再会するきっかけなんぞロクにないまま自然消滅するものですし、万が一再会したとしても、気まずくスルーされてしまうのがオチだったりするのですが(笑)、そこはそれ、創作ならではのドラマチックな仕掛けなのだと満足しましょう。

あえて結末を書かないのも心憎い演出。
コンテストの字数制限(上限6000字)には余裕があるにも関わらず、わざと書かない。
書くまでもない。
この辺のさじ加減にも、作者様の感性が光っていました。



惜しむらくは極限まで字数を削っている(コンテストの下限4000字)ため、やや駆け足展開に感じられた点でしょうか。
ヒロインが大学四年の頃に送ったメールから始まるのですが、次のシーンではもう新社会人となり、明確な場面転換の描写もないままあれよあれよと月日が飛んでいく。
ダイジェストじみているかな、というのが★2の理由です。
しかし、この字数でよくまとまっていると感心しました。長く書くのは誰にでも出来ますが、短くまとめるのは技術がいります。短編を日頃から多く発表している作者様なだけあって、さすがの手際でした。

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