第4話:叔父

 私はレーザーを使い下水道を歩き続けた。ひどい臭いではあったがなんとか倒れずに歩けている。現状で最も大きな問題は臭いではなく頭痛である。さすがに意識が2つになるという、このような未知の体験をしたにも関わらず休まず長距離を歩き続けたため私はぼろぼろである。少し休憩、取ることが出来れば睡眠もとることにした。


 しかし睡眠するに従って大きな問題が一つあり、睡眠中に体の自由を奪われてしまわないかということだ。先ほどまでは逃げていたこともあってそのようなことを考える余裕がなかったが、今としては非常に重要な問題である。先ほどまでは私2号は下半身を動かすことだけを考え、私は上半身を動かすことだけを考えていた。しかしどちらかが動かしている肉体の箇所を動かそうとは一度もしていない。もし逃げている最中にその箇所が動かないことに気づいてしまうと、私達の逃走に間違いなく悪影響を与えるだろうと考え試していなかったのだ。


 そのため片方の意識が体の自由を奪って、その後一生体を操ることが出来ない状態にすることが出来るというのは推測どころか被害妄想の域なのだろうが、もし事実であればそこで実質私は死である、なんとしてもこの問題は避けたい。


「おい、どうする」 私は私2号に話しかける。


「どうするって、まあ寝るしかないだろ」


「いや寝たら体を取られるかもしれないってことだよ、お前も分かってるだろ?」


「じゃあ何か対策を考えるしかないだろ、どっちにしろ寝ないといけないんだから」


 初めに、先ほどの体のっとり問題に関して調べようとまず相手が主導を握っている箇所を動かす実験をしてみた。私は足を、私2号は手を動かそうとしてみる。これによってお互いが主導している箇所に干渉出来るか試してみた。まずは私が足を動かす、私の肉体は壁にもたれかかっている状態で私2号はその状態で足をのばし足を上下運動してみる。その上下運動と逆に動かそうと私は指示してみる。すると上下運動は私2号が動作させているまま動いていたが、少し動きが鈍くなったように見える。


「どんな感じだった?」


「うん、ちょっと足がしびれたように感じたかな、足もなにか動かす方向に引っ張られているようなだった」 


 そう私2号は答える、どうやら少なくとも相手が主導を持っている箇所でも干渉することは可能なようである。


 次は上半身でのテストである、私が動かす番だ。


「次は私が手を握ったり開いたりさせるからそれと逆方向になるような動作をしてくれ」

 

 私は手の平をグー、パー、グー、パーと繰り返す。そうすると私2号が逆方向に動かそうとしたのか手が痺れたような感触を覚え、震えだす。おおざっぱな動きは出来るが、針の意図を通すといったような細かな作業は間違いなく出来ないだろう。


「少なくとも片方が肉体のすべての主導をとってしまっても、妨害されると非常に生きづらいし寝ても大丈夫なんじゃないか?」


「そうだな、とりあえず寝ることは大丈夫そうだ。下半身上半身に分けるというのもとりあえず叔父さんの居るところまでは続けて、それからどういう風に肉体を利用するかは考えよう」


 そして私達は3時間ほど仮眠した。万が一にでも下水に落ちないようにマグネットテープで体を固定する。

 

 3時間後タイマーが鳴り、目が覚める。少し前に私2号が目を覚ましており、上半身を操っていたので私は下半身に徹することにする。筋肉が張っており私は悲鳴を上げながら歩く、上半身のバランスを自分でとれないせいか普段よりふらふらして歩いてしまう。こんなところでつまずいて怪我をしないようにしなければ。


「なあ、これからどうやって生活する?」 私は2号に話しかける・


「そうだな、とりあえず交互で体を利用していかないか?8時間はお前、8時間は私、8時間は睡眠といった形で」


「それがいいな、私が引っ込んでる間にとんでもないミスやケガはしないでくれよ、私の体なんだから」


「いや、二人のだろ図々しいな」


 私たちは軽く冗談をいいつつ前へ歩いていく。自分の理解者がいるというのは非常に気が楽だなと感じた。状況は追い込まれているのかもしれないが、気分は晴れやかである。

 

 予定してあった下水道のドアを開けて外へ出る。外は気分と同様に私の目の奥を焼くほど晴れやかであった。


 私は下水道を抜け街の外れに入り、外れにある服屋で服を購入した。この街は私の住んでいた都市とは違う管理にある都市である。あまり危機感を持つ必要はないだろうが注意して歩いていく。叔父とはとあるアパートの一室で会うことを約束していた。急いで歩き約束のアパートに着く。見た目も相当古びており普段から利用している住居でないと感じた。私は玄関の前に付いてあるアナログなベルを鳴らす。そうするとすぐ叔父がドアを開いた。


「おお、よく生きてこられたな! 追手は確認したな? まあ、中に入ってどんな状態か教えてくれ」


 そう言いつつ私を叔父は中へ案内する、私はまず疲れをとるため風呂に入らせてもらう。ある程度落ち着き私は今までに起きたことを叔父に伝える。まず脳を解放した、そして意識が分裂してしまった、その状態で下水道を逃げてきたこと、私は考えられること隠さず伝えた。


「なるほど、それで上手く解放させてくれたと、お前の都市は人工知能の目が届いてないのは幸運だった」


「今では様々な実験都市で人工知能が人間を見張っているからな、もし人工知能が力を持っている都市であれば市長は間違いなく隠さずお前を殺していただろうな」


 私はごくりと唾を飲み込む。予想していたように私の行った行為は相当罪深く、そして危ない橋を渡るどころか危うい綱を渡っていたのだろうと感じた。


「それにしても人工知能ってそんなに危険なのか? ただの便利な人間の道具だろ?」


「そうだな、お前にはそこから伝えないといけないだろう」


「どこから話せばいいか…まず、初めに最も重要な事を伝えておく。ここは反体制派の隠れ家の一つであり、俺はその組織の一員である、そして組織の共通の目的は…人工知能の破壊だ」


「なに?人工知能の破壊? あれを壊すと科学技術の進歩が止まるどころか維持すら困難になってくるのも多いだろ」


「理由は組織に所属する人それぞれにだが、例えば人工知能が人類を仕切るのが許せないという人間が一番多いかな、ろくでもないやつが人工知能によって痛い目にあわされたことの逆恨みから、人類至上主義まで様々なタイプがこの理由から組織に属している」


「逆恨みと人類至上主義? あまり賢い人間が所属している組織とは思えないな」


「まあその辺りは表に出してる主張だからな、俺が思っているのはまた別の理由だ。お前にも組織に協力してもらいたいと考えているからそれは伝えておく」


「まあここまで来て協力を求めず暮らしていくことは出来ないだろうから聞いておくよ、なぜ人工知能を叔父さんは破壊しようとしているんだ?」


「俺が人工知能を壊そうとする理由はただ一つ、人類を守るためだ」

 

「人類を守る?全く逆の行為じゃないか、人工知能が法律を作っている地域も多い。今人工知能をなくすとどれだけ犯罪が起きるか分からないぞ」


「それはもちろんそうだ、しかし人工知能を壊さなければ人類は生きていけないのだ。率直に言おう、人工知能は人類を消そうとしている、少なくとも私はそう思っている」


「そんな馬鹿な、機械が人間を裏切るなんて! 証拠はあるのか!?」


「詳しくはお前にもまだ言えない、あまり詳しく知られた状態で人工知能側に情報が洩れると間違いなく皆殺しにされるからな。どちらにせよお前は俺に協力しないといけない、協力すれば生活と安全は保障しよう」


「ああ…分かった、少なくともしばらくはおとなしくするよ」


そして私はしばらく叔父のお世話になることになった。

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人工知能と脳機械化と近未来 瀬戸内海 @20170305

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