14:エピローグ
結局、僕が指定したのは、高校の近くの公園だった。以前、桜口さんがクッキーをくれた場所だ。
「ごめんね、上野くん。掃除が長引いちゃって」
「いいよ、僕も今来たとこ」
前回と同じように、僕たちは並んでベンチに座る。気の利く桜口さんは、ホットのレモンティーを買ってきてくれていた。
「ごめんな、こんな寒い所に呼び出して」
「ううん、いいの」
そうは言うものの、桜口さんはペットボトルを握り締めて手を温めている。やっぱり、喫茶店とかにすれば良かったかな。
いきなり本題に入るのもこわいから、僕はまず、小説の話を始める。
「昨日更新されたとこまで、読んだよ。ついに今日、完結だね」
「うん。書き終わったときは、嬉しかったけど、寂しかったな」
「また次の話を書けばいい。僕もそうするつもりだよ」
さて、どうしたものか、と僕は考える。ここからどうやって、告白の話に持っていけばいいのだろう。
僕の口は勝手に、次回作の構想について話し始める。桜口さんは、ニコニコとそれを聞いてくれている。
そうやって時間だけが過ぎていき、早くも日が傾き始めてしまう。そろそろ、ちゃんとしなくちゃ。
「あのね、上野くん。わたし、小説を書き終えたら、しようって決めていたことがあったの」
「……ん?」
桜口さんは、僕の方へくっと身を乗り出す。
「わたし、その、上野くんのこと……」
もしかして。もしかして。
「好きです。付き合って下さい」
僕は頭を抱えた。僕はスローモーションな人間だ。だからといって、告白まで先にされちゃ、男としてのメンツが……。
えっ? 告白?
「ごめんなさい! 嫌だよね、私なんかと付き合うの!」
「違う! そうじゃないんだ、今のは、自分のふがいなさに辟易してたんだ!」
僕は桜口さんの両肩を掴み、言い訳を並べる。
「本当は、僕の方から、好きって言いたかったんだ。でも、中々言いだせなくて。ごめんな、桜口さん」
「じゃあ、いいの? 上野くん、彼氏になってくれるの?」
「もちろん!」
僕はそのまま、桜口さんに抱きついた。桜口さんは一瞬身を強張らせた後、僕の頭を撫でてくれた。
「えへへ、嬉しい。あったかいよ、上野くん」
「こちらこそ、ありがとう……」
翌日、例の四人が僕の机の周りに集まっていた。篠原と深田は、僕と智美を見て意地の悪い笑みを浮かべている。
「聞いたぞ? 結局桜口さんから告白したんだってな」
「ち、違うの! それは透くんがね」
「あらあら、早速彼氏のことかばっちゃって、智美は可愛いわね」
しばらくは、こうして奴らのおもちゃにされるのだろう。でも、気が滅入るほどではない。むしろ大歓迎だ。
「ところでね、あたしも小説書くことにしたから」
深田が自信満々にそう言ってみせる。僕は深田に聞く。
「どういうの書くの?」
「AIが世界を支配した人間にとってのディストピアの話。つまりSFね」
「すごいね、ゆかりちゃん!」
「晴れてゆかりも執筆仲間ってわけだな」
篠原が深田の背中を叩くと、深田もやり返す。そして彼らは、二人でじゃれ合いを始める。放っておこう。
「ねえ、透くん」
僕の彼女が、上目遣いで話しかける。
「わたしの一作目、二人が付き合うところまでで終わったでしょう?」
「うん、そうだな」
「二作目はね、付き合った後から始めようと思うの。どうかな?」
「もう少し実地経験を積んでからでも、いいんじゃないかな」
僕がそう言うと、智美は耳まで赤くなって顔を伏せる。
僕たちには、今しかできないことがある。今しか書けない物語がある。
だから、自分のペースと時間の許す限り、紡いでいこう。
僕たちだけの物語を。
モノモノ~物書きたちの物語~ 惣山沙樹 @saki-souyama
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