幸福で完璧なる街カクヨム

うみ

完全で完璧な街カクヨム

――ZAP! ZAP! ZAP!


 レーザーガンが照射され憎き反逆者……叶健太郎の頭が吹き飛ぶ。反逆者は即刻コンピュータによる処刑が成される。


「次のクローンに期待しましょう」


 コンピュータの無機質な声が響き、クリスタル製の床が人一人分音も立てずにスライドする。

 そして、床からせり出してくる人間……叶健太郎-2だ。

 

「全く、奴はとんでもない反逆者でしたね。HAHAHA」


 出て来るなり朗らかに叶健太郎-2は高笑いし、以前の自身を自己否定する。処刑され消された存在は反逆者だが、クローンである叶健太郎-2はそうではない。

 全く同じ記憶を持つんだけどなあ。

 

 ここは幸福で完璧な市民が暮らす街カクヨム。コンピュータによる絶対幸福が保証されるユートピアだ。

 市民は小説を執筆し、五作品の小説を読む生活を続けている。作品を書いたり読んだりする以外に仕事はない。完全に調和のとれた完璧な世界……

 衣食住は全てコンピュータから支給されるまさに夢のようなユートピア。

 

 幸福な市民の生活を妨げないよう、反逆者は即処刑される……そうさっきの彼のようにね。


「池田壱。あなたは幸福ですか?」


「はい。コンピュータ様。善良で完璧なる市民である私は完全に幸福であることを報告いたします」


 コンピューターの問いかけに俺は完全で完璧な返答を行う。

 

「市民。幸福は義務です。本日も作品を書きあげ、そして読みなさい」


「分かりました。コンピュータ様!」



◇◇◇◇◇


 

 毎日小説を書いているが、最低一日一話三千字を書きあげるのが幸福で完璧たる市民の義務である。義務を果たせぬ市民は居ない。完璧で完全だからな。そうでない者は反逆者だ!

 反逆者は即処刑される。ZAPZAPZAPとね。

 

 本日分を書き上げた俺は一つ目の義務――小説執筆は完了した。さてお次は「読む」だな。

 

 作品を流し読みした俺は全てに最高評価をつけていく。完璧で完全なる市民の作品は完全で完璧なはずだ。全て最高評価の星三つ。間違いない。

 今日も星三つを五作品につけた俺は満足し就寝する。

 

――しかし、翌日事件が起こる。


 なんと俺が反逆者かもしれないと疑いが入ったのだ! 完全で完璧たる俺が?

 

「市民。幸福は義務です」


「はい。コンピュータ様」


「あなたは完全で完璧な市民に相応しくないと連絡が入りました」


「どういうことですか?」


「市民。全ての作品に評価満点をつけましたね?」


「はい。完全で完璧なるカクヨムの作品に満点以外ありましょうか?」


「市民。たった二文字しか書かれていない反逆者の小説に星をつけましたね?」


「え……」


「市民。反逆者の小説に星をつけるのは反逆です」


――ZAP! ZAP! ZAP!


 レーザーガンが俺へ照射され、俺の意識が遠のいていく……

 

 次に目覚めたのは、床からせり出してきた時だ。

 

「全く、奴はとんでもない反逆者でしたね。反逆者の作品に星をつけるなんて。HAHAHA」


「市民。幸福は義務です」


「はい! コンピュータ様!」


 俺――池田壱-2は清々しい気分でコンピューター様の居室を後にする。さあ。今日も執筆し作品を読もうじゃないか!

 完全で完璧な市民は毎日三千字執筆するのだ。二文字の小説なんて反逆以外何者でもないさ。

 さあ楽しもう。幸福で完璧なる世界カクヨムで。

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