過酷な運命に立ち向かう主人公たちを、暖かく見守る視線

古代文明が残した「魔剣」を軸に展開する、三人の少年少女を中心とした戦いの物語。聖剣ではなく魔剣、そこに秘められた禍々しさと、それに翻弄される人間性の対比が、落ち着いた筆致で描かれていきます。
長い作品ですが、この物語の主要人物であるリディア、クラウス、シホの三名のキャラクターを飲み込んでしまえば、あとは毎日の楽しみとしてするすると読み進んでしまいます(個人的に、そんな読み方でした)。第三章の終局以降、物語は核心に迫り、この三者の関係が変わると、あとは最終章までフルスピードで駆け抜けていきます。明かされる過去、葛藤、魔剣の秘密。最後の決着については、ほんとうにもう、祈るような気持ちで見守るしかありません。
基本的に過酷なお話ですし、登場人物たちはいろいろな意味で深く傷つきながらも戦うことを強いられます。その意味で残酷なお話ではあるのですが、そこには不思議と、見守るような暖かな視線のようなものも感じます。読み終えてみると、その暖かさこそが、この作品の特徴のようにも感じます。
思えば作品には複数のメンター(庇護者)が登場します。ラトーナ、フィッフス、そしてシスター。その配置の細やかさ、気配りのようなものが、作品の暖かさを生んでいるのかもしれません。それがとても、心地よい。
主人公格の三人を、読み手としても応援したくなる、暖かな作品でした。

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