第9話色々なちょうど良いが解ってない
「さて、今回は物事のちょうど良さについてだ。そろそろお前も学んでおく必要があるだろ」
半袖ポロシャツのクセに鳥肌が立っている木村さんはいくらかやせ我慢してるように見えた。そして何故か、その笑顔がとても老けて見えた。
「ずいぶんとまたアバウトなお題だね」
「まあもっと具体的に言うなら『ちょうど良い退き際』とか『ちょうど良い区切り』とかそういう話だな」
「退き際。区切り。前回が『頑張れ、エタるな!』的な話だったのに今回は真逆というか。またエラくと違う角度からの意見だね」
「そうだな。だが、なにもネガティヴな意味だけの話じゃない。作品が愛されてるウチに区切りをつけるというのは、勇気がいることだ。しかし場合によってはその方が評価されることもある。おまけに作品をキレイに終わらせることは実はけっこう難しいことなんだ」
「確かにね。すっぱりキレイに終わってる作品て、実はあんまり無いかも。最近に限った話じゃないけど、人気ある作品なんて大概が次回作を匂わせて終わるよね」
「まあそれはプロの世界の話だからな。色々と大人の事情もあるんだろう。『コレ、絶対続編作る気なかっただろ無理矢理作らされたな』って思う続編作品もあるしな。それに、終わり方だけじゃなくて、作品自体の退き際ってのも肝心なポイントだと思っている。特に作者にとってはな」
「というと?」
「最初はどんなに評価されててもタイミングを間違えれば途中から段々失速していき、最終的には『まだやってんのかよ』的な目で見られることもある。それは結果的に作者自身の評価を下げることになる。もちろん固定のファンもいるけど、ダラダラと続けているのを望む人は多くないだろうな」
「まあね」
「そういう作品は大抵ちゃんと終わり方を考えていなかったか、ちゃんと考えてはいても人気が出てきて欲をかいてしまったりとかがほとんどだ。いいタイミングでちゃんと終わらせるということは、ある意味では同じクオリティでちゃんと継続させていくのと同じくらい大切なことなんだ。作者の技量が問われる」
「そうだね。あらかじめ終わり方をちゃんと決めておいて、それに向かって作品が進んでいく方がまとまりのある内容になるかも」
「それ。つまりそれが言いたいんだよアミーゴ。初めから終わりをしっかり設定おく。んでちゃんとそれを崩さず進行させる。タイミングってさ『これじゃちょっと足りないかな?』って思うくらいが、実はちょうど良かったりするんだよ。人気が出てるからって当初の予定を変えてズルズル続けると、後半はしっかり考えていないから内容の質が低下したりする。そうなると『最初は面白かったのにな』という評価になり兼ねない。そうなったら勿体ないだろ?」
「まあねえ。続けたくなる気持ちは凄く解るけど」
「蛇足はしょせん蛇足さ。確かに読者は好きな物語が永遠に続けば良いと思ってる。俺だってそうさ。だけど、永遠なんてない。全てにはいつか終わりがくる。だからこそあらかじめちょうど良い終わり方とタイミングを設定しておく。これはとても大事なことなんだ。それに向けて物語を組んでいけば自ずと評価はついてくるんじゃないかと俺は考えている。足元がしっかりしてる作品はまとまりがあって読み易いからな」
「なるほどね」
「食べ物で例えるなら腹がはち切れるくらい大量に食べるより、腹八分目くらいがちょうど良い満腹感を感じたりするんだよ。ガツンとした濃い味よりも出汁の効いたうす味くらいが実は箸が止まらなかったりするんだ。小説だって似たようなもんさ。足りないと思うくらいが丁度いい。そういうもんなんだよ」
「なんかオジさん臭いなあ」
「え?臭うか?」
「いや、じゃなくて。好みというか発言がさ」
「まあ実際オジさんだからな」
「そうだね」
「ふふふ」
「ふふふ」
「ともかくまあそんな感じだ。お前の長編ファンタジーも完全にちょうど良い区切りを見失った感じだったもんな」
「60話。20万字」
「うん。満腹。胃もたれ確定だよ」
「しかも大味ね」
「次回はもう少しちょうど良い具合の内容量とテイストにしてくれ」
「頑張るよ」
「さて、察しのいい人はもう解ってると思うがこの創作論もここらでちょうど良い退き際だ」
「へっ!?」
「なんだ。察し悪いなアミーゴ」
「どういうこと?」
「だから、次でこの創作論。最終回だから」
「きーてないよー!!!」
考えてみたら
次回、最終回です。
『理由その9 色々なちょうど良いが解ってない』
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