第10話 人生を楽しむことが小説を書く目的

「さて、そろそろ行くかな」


脳内親友イマジナリーフレンドのフェルナンド・木村さんがしばらく旅に出ると言ってお別れを言いに来たのは、連休が始まる直前のある日の午後だった。



「僕が★100を獲得できない100の理由」


最終話




「本当に行っちゃうの木村さん?」


「ああ。旅に出る。旅、というか凱旋に近いかな。故郷のスペインに帰るんだ」


「本当にスペイン人ハーフだったんだ‥‥」


「あん?」


「いや‥‥なんか顔が濃いだけの板橋区あたりの人だとばっかり‥‥」


「バッキャロウ!!こんな情熱パッションにまみれた板橋区民がいるかよ!」



※板橋区民の方、すみません



「でもどうして突然旅に出るとか言ってんの?もう32でしょ?いい加減落ち着いたら?」


「おいおい野暮は言いっこなしだぜアミーゴ。

年齢や職が無いことなんて、俺が人生を謳歌する上では些細な問題さ」


「ええ、そうかな?」


「そうさ。それに、お前も男の子なら解るだろ?旅に出るってことは自分で思うことじゃない。呼ばれて旅に出るのさ」


「え?誰に呼ばれるの?」


地中海うみこえにさ」


「‥‥32歳自称『地中海の旅人スナフキン』こと無職の男」


「おぃぃ!!逮捕された時の読み上げみたいなことしてんじゃねえ!それに、無職無職ってうるせえんだよ。俺だって肩書きくらいあるぞ」


「え?なに?」


「ラ、ライフパフォーマー?」


「自称の域出てねえじゃんかよ」


「うるせえ!しかしまあ、お前が俺を親友スナフキンだと思ってくれてるのは嬉しいけどな」


「まあビジュアル的にはスティンキーだけどね」


「毛ね!それ、毛だからね!」





「まあおふざけは良いんだ。それより大丈夫か?」


「なにが?」


「小説の方だよ。俺がいなくても大丈夫か?ちゃんと書けるか?」


「もともと一人で書いてたし大丈夫だよ。それに、元来執筆って孤独な作業だと思うし」


「ま、そうだな。けどなんか頼りないねえ」


「どこが?」


「アミーゴの顔がさ」


「生まれつきだよ」


「そうなんだけどよ。なんか不安にさせられるんだよなあ。本当に俺が旅に出ても上手くやれるか?」


「しつこいな木村さんも。大丈夫だって」


「よし。そこまで言うなら、今日まで俺が言ってきたお前が★を思うように獲得出来ない理由を全部この場で繰り返してみろ」


「ええ?えーと‥‥」


「哀しみのバーンナッコウ!!」


「えびしっ!?」


「おい!何度も言ったろ!大丈夫かって。お前はホントそういう癖がある!大丈夫じゃないのにすぐ大丈夫だって言う。止めろその癖!」


「いや、本当に大丈夫だよ!今はいきなりだったからちょっと躓いただけだから!」


「そうか?じゃあこうしよう。今から1つずつ聞いていく。で、ちょっとでも言い淀んだだらバーンナッコウだ。いいな」


「なんで?!なんで殴るの!?なんでそんな体育会系なの?」


「それじゃいくぞ!」


「ねえなんで!答えて!」


「第1話、そもそもお前が思うように★を獲得出来ない理由はなんだ!?」


「え、えーと確か‥‥」


「バーンナッコウ!!」


「ぽぅ!!」


「反応が遅い!ダメだダメだ!」


「ぐっ‥‥そもそも勉強不足だった‥‥」


「よし。次っ!第2話!ガバガバだったのは何?」


「設定!!」


「バーンナッコウ!!」


「ごんぶっ!!」


「バカっやろう!違う!」


「ええ!?違くないよ!」


「違う!キャラ設定がガバガバなんだ!」


「こまけえ‥‥」


「次!第3話!主人公に足りないのは何と何?!」


「魅力と親しみ!モロタァ!!」


「惜しい!バーンナッコウ!!」


「ばあぶ!!」


「親しみ易さだ!あとモロタァ!は要らない!」


「判定がシビア過ぎるよ」


「まだ行くぞ!!第4話!選択にしてやる!

『作品が○○過ぎる』なに過ぎる?1、ダサ過ぎる2、読みにく過ぎる3、平凡過ぎる」


「3だ!」


「残念、この中にはない!バーンナッコウ!」


「があぼん!!」


「正解は個性的過ぎるだ!まだまだいくぞ!」


「鬼畜だよ‥‥」


「第5話。読者の目線に立てていない。さてついた♡の数はいくつ?」


「ええ!?予想外過ぎるう!!」


「全然ダメっ!16個!バーンナッコウ!」


「パウチっ!!」


「相変わらず読者の目線に立ててないな。それくらい把握しておけ。ハイ次!」


「ぐっ‥」


「第6話」


「読み返しをしてない!」


「ですが‥‥」


「え?」


「初登場のゲストの名前は?」


「え?ええとあのー‥‥ヤク‥‥」


「バーンナッコウ!!」


「ぶえ!」


誤道脱男ごみちだつおさんでした」



『ゴメンやで〜』



「もう終盤だぞ。まだ正解ゼロだな」


「鬼畜過ぎるよ。いくらなんでも」


「ハイ次いきま〜す」


「クソっ‥‥」


「第7話!SNSを有効活用できていない!」


「ハイ!」


「ハイ!」


「え?問題は?」


「‥‥」


「‥‥」


「バーンナッコウ!!」


「あべしし!!」


「そもそもタイトルが間違ってる。『有効活用』と書くところを『有益活用』とか書いてる。もうこの時点でダメ」


「っんだよ‥もうっ」


「第8話!!情熱の○○が間違ってる!さて何?」


「え?引っ掛けなし?」


「そうだ」


「ペース配分」


「正解!!」


「やった!」


「バーンナッコウ!」


「いたっ!なんで!?」


「なんかムカついたから」


「ええ!!」


「ラスト!第9話タイトルは?」


「色々なちょうど良いが、分かっ」


「バーンナッコウ!!」


「がっ!!」


「バーンナッコウ!!」


「べっ!!」


「バーンナッコウ!!」


「しっ!」


「良い加減にしろアミーゴ!バーンナッコウ!」


「ぶべっ!」


「こんなんじゃ、バーンナッコウ!!」


「ごぶっ!!」


「こんなんじゃ、バーンナッコウ!!」


「りんっ!!」


「こんなんじゃいつまでたってもフェルえもんが安心して故郷に帰れないだろ!!」


「いや‥‥マジもう帰ってよ‥‥」


「スタンドバイミー、帰ってきたフェルえもん」


「いやスタンドバイミーていうか幽波紋スタンドじゃん」




「こりゃあしばらく旅に出れそうもないかな?」


「いや大丈夫だよマジで。頑張るよ僕」


「本当か?」


「本当本当。良いからさ。行ってきなよ」


「そうか。んじゃま。そうするよ」


「うん」


「アディオース・アミーゴ」


「じゃあね。木村さん」



そうして本当に木村さんは旅立って行ってしまった。




故郷に着いたという写真つきのハガキが僕の元に届いたのはそれからしばらくしてからだった。写真には海をバックにムカつくくらいの笑顔でいるオッさんと、見たこともないオッさんが肩を組んで歩いていた。


ハガキにはこんなことが書いてあった。




『オラ!アミーゴ!


変わりなくやってるか?こっちは最高だぜ。やっぱり生まれ故郷が一番いいな。お前もいつかこっちに遊びに来いよな。


それはそうと、お前に小説のことで1つ言い忘れたことがあったのを思い出したんだ。それを伝えたくてこの手紙を送ることにした。


聞いてくれ。


今まであれやこれや言ってきた。その全ては正しいかもしれないし、間違っているかもしれない。それこそ物事の判断なんて時代や状況に応じて変わる。だけど何事も一生懸命にやることが大事だ。それだけは分かってくれ。お前に1つだけ言いたい。一番大事なことは『自分が心底楽しんで小説を書く』ってことだ。全てはその為の糧に過ぎない。★を100個とることも、人から評価される小説を書くこともだ。全ては自分の為、自分が楽しんで小説を書く為に必要なピースでしかない。それを忘れないでくれアミーゴ。人生を謳歌するのは人の義務だ。そしてお前は、人生を楽しむ手段として小説を書いている。だがいいか。小説を書くことが目的になっちゃいけない。目的は人生を楽しむこと。小説を書くのは手段だ。それを履き違えちゃいけない。忘れるな。


お前の人生に楽しみが溢れていることを願う。


地中海より愛を込めて。


心友フェルナンド・木村こと木村かず男より




「人生を楽しむことが小説を書く目的」


その言葉をハガキの中に見つけた時、僕は何かから解放されたような気分になった。同時に、目に少し熱いものを感じた。



『PS、

キャバクラ・メランコリーのツケがだいぶ溜まってしまいました。怖い人たちが取り立てに来ると思います。よろしくお願いします。


バーンナッコウ』



「きむらああああああああああ!」



木村さんのおかげで肩の荷が下りた気がしたが、同時に何かとんでもなく重い物を背負わされた。


受難は続く。




「理由その10『人生を楽しむことが小説を書く目的』ということに気がついていない」







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僕が★100個を獲得できない100の理由 三文士 @mibumi

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