第4話 作品が個性的過ぎる

「いいか、今回は個性についてだ」


先日、脳内親友イマジナリーフレンドのフェルナンド・木村さんはアイディアとやらを僕のカーペットに盛大に吐き散らかした。彼は今、そのカーペットを手洗いしながら偉そうに説教を垂れ始めた。




「個性?」


「あるいは独創性。まあオリジナリティとも言うわな。創作するにおいては必要不可欠なもの」


「うん」


「そして諸刃のツルギでもある」


「諸刃の?どうして?」


「うむ。個性ってのは作品の大きな魅力のひとつだ。しかし一歩間違えると読者との間に立ちはだかる巨大な壁になりかねない」


「オリジナリティが?壁に?」


「そうだ。例えばそうだな‥‥お前が初めてのラーメン屋で注文をするとしよう」


「またラーメンのたとえ話?好きだねえ」


「いいだろ。嫌いかラーメン?」


「好き」


「いい子だ。話を戻す。その店のメニューには写真がない。しかも種類は二つだけ。『当店オススメスペシャルラーメン』と『昔ながらの醤油ラーメン』だけだ。お前ならどっちを注文する?」


「ダメだ、その店は」


「なぜだ?」


「メニューに写真が載っていないなんて客のことをまるで考えてない。自信過剰な店主のエゴを客に押し付けてる。そんな店、早く出た方がいい」


「‥え?うんまあ‥‥例えばだからさ‥まそうなんだけど‥‥」


「明日、もう一度ここにいらしてください。本当のラーメンをご覧にいれますよ」


「バーンナッコウ!!」


「かりやっ!」


「グータラ社員みたいなこと言ってんじゃねえ!早く二択から選べ!話が進まねえだろ!」


「イテテ‥‥でも殴るのは酷いよ‥‥。じゃ、じゃあ醤油ラーメンかな?」


「シロウ!愚か者め!私ならこの中からは選ばん!!」


「ええ!?ヒドい!?」


「冗談だよアミーゴ。そう。醤油ラーメンを選ぶ。大概の人間はそうするよな」


「まあね。初めての店でしょ?情報が少なすぎるし、そんなとこで冒険はしたくな


「それええええ!」


「えええええ!?」


「つまり小説でも一緒なんだよ。初めて見る作者の初めて読む小説。もし興味を持ってくれたとしても、あんまり個性的過ぎる内容、あらすじや紹介文だととっつきづらいだろ」


「まあそうね」


「個性的過ぎる内容はハードルが高い。『へえ。面白いこと考えるなあ』と思う人間は三割くらいであとはよっぽど余裕がないと手にとってはくれない。大半の人間は無難というか王道的な内容のものに惹かれるんだ」


「えーでもみんな同じ内容だとつまらなくない?」


「シャッタファックス!!」


「ファックス!?」


「いいか?お前は星を獲りにいってんだろ?だったら、そういう芸術肌的な考えはひとまず捨てろ。まず一般的に面白いと思える物を書けるようになってから偉そうなことを言え。圧倒的に技術が足りてないんだよ。先に人さまに読んでもらえる技術をしっかり身につけてから自分の個性を出せ」


「うーん‥‥他の人も書いてるようなもの書いて評価されても、イマイチ嬉しくないというか‥‥」


「うーんじゃねえ!真ん中の棒は要らねえんだ!返事はうん!だろ!創作してるって連中はどいつもこいつもそういうことを言うがな、お前みたいな有名でもなきゃプロでもない。そんな馬の骨みたいな奴の作品、誰が好き好んで読む?星を獲りたいんだろ!?だったら一旦くだらないアマチュアなプライドを捨てろって。少しでも多くの人の目にとまる様に努力しろよ」


「でも‥‥」


「でもじゃねんだよ!!いいか?少しでも多くの人の目にとまる作品を書け。分かり易く、王道で、需要のある内容。そしてそれを完結させろ。そうすればきっと、多くの人がお前の作品を読んでくれる。結果その作品を気に入った人はきっとこう言うはずだ『次回作、期待してますね』とな」


「嗚呼、なんて素敵な響き。一度は言われてみたい言葉だ」


「なら努力しろ。研究と努力無しに得られる賞賛はない。あってもそれはただの幸運でお前の糧にならない」


「なんか‥‥木村さん真面目だね今回。なんかあったの?」


「何もない。何もないからこうしてお前を焚き付けてるんだ」


「どういうこと?」


「お前、このままでいいのか?」


「え?」


「趣味で小説を書いてるのはいい。別にプロになれなくても構わない。そう思ってんだろ?良いよそれは別に。全くなんの問題もない」


「うん」


「だけど羨ましくないか?上位を獲っている作品が。日々更新される♡の数。数多のレビューや応援コメント。そして大自然の山中の様に、作品に降り注ぐ数多の★。一度でいいから、そんな作品を書いてみたいと思わないか?」


「う‥‥」


「自分の書きたいものは大事だ。お前は『自分はプロじゃないから自由に書きたい』って言うだろうな。確かに。だけどアマチュアが人のウケを気にして書いちゃいけないなんてことはないんだぜ。大衆向けの作品が好きじゃないのは解るけど、一度くらいやってみる価値はあるだろ?」


「そう‥‥だね」


「そうさ!大概の連中は口にするんだ『大衆に迎合したものは書きたくない』。違う、書けないんだ。大衆向けの作品を書くのは難しいんだ。お前も書けないから『書きたくない』と言い訳するクチの奴か?」


「違う。僕は‥‥」


「だったら書いてみろ」


「うん‥‥」


「別に自分の個性を完全に殺せって言ってるわけじゃない。少しは主張したっていい。要所に散りばめてもいい。本来個性ってのはほんちょっとでいいんだ。隠し味やスパイスみたいなもんだ。隠さなきゃ隠し味にならないし、スパイスだらけじゃ食べ辛いだろ?」


「そうだね」


「大衆向けの作品を書き終わって、★を100個以上とれて自分に自信がついたら、思う存分好きな作品を書け。なんたってお前はアマチュアなんだから、幾らでも好きに書けるんだ」


「確かにそうだ。木村さんありがとう。僕頑張ってみるよ」


「そうだな。期待してるぜ」


「うん」


「‥‥」


「うん?」


「‥‥」


「アレ?」


「うん??」


「どうしたの?」


「なにが?」


「いや、いつもなら5時に夢中!見るから帰るっていうところだけど」


「ああ、まあ、ねえ」


「え?どしたの?なんかソワソワして」


「いや別に」


「あそう?へんなの」


「ねえ。アミーゴ」


「なに?」


「なんか気がつかない?」


「え?なにが?」


「何か気がつかないかって聞いてんの」


「いや別に」


「パッワー!ゲィザァー!」


「えびし!」


「馬鹿!アミーゴの馬鹿!オタンコナス!」


「え?古いな‥‥なに?」


「髪切ったのに全然気がつかないんだから!」



木村さんが一番個性的でとっつき辛いよ。僕は心からそう思った。



理由その4

『作品が個性的過ぎてとっつき辛い』

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