第2話キャラ設定がガバガバ

部屋の中でしこしこと人気小説を読む僕の前に、再び脳内親友イマジナリーフレンドの木村さんが現れる。




襖スコーンッ!


「うあ!びっくりした!」


「オラ・アミーゴ。シコってるか?」


「いやなんかやだなその第一声」


「なんだよ。浮かない顔だな」


「まあねえ‥‥木村さんに出された宿題、★がたくさんついてる作品を少し読んでるんだけど」


「おっ!いいじゃねえか。で?何をチョイスしたんだ?」


「いや。色々あってね。誰にでもできる影から助ける魔王討伐的な?やつ」


「的な?は要らねえだろ。無駄にボヤかすなよ。意味ねえから」


「いくら僕が恥知らずのパープルヘイズでもさすがに有名作品を取り上げるのは怖いよ」


「村上春樹嫌いを公言してる奴が何言ってんだよ。いいから。どうだったんだ?」



「うん?ああ。誰にでもできる影から助ける魔王討伐はね‥‥」


「長いな」


「うん」


「以下、討伐で頼む」


「わお。大胆カット」


「だが」


「それがいい」




「で?討伐はどうだった」


「まだ少ししか読んでないけど、こちらは僕の足りない脳みそでも十分理解できるほど易しい内容だったよ」


「そいつぁよかった。ここで断念してたらお前が泣くまで殴るのをやめないとこだった」


「え、なんか凄い怖いことごく普通のテンションで言ってる」


「どういうところが読み易いと感じた?」


「ええっとね。僕の読んだところは会話よりも主人公の語りが多かったんだけど、それが全然くどくなくてちゃんと状況とか背景とかを説明してくれてるから絵を想像し易かったんだ」


「ふむふむ」


「それからやっぱりキャラクターかな。なんかみんな個性的でキャラ立ちしてたし、だけど余計な描写とかもないからスッキリしてた」


「それだ!」


「え?どれ?」


「今、お前が言ったことだ!」


「この創作論がピックアップに載せられてたってこと?」


「レップーケーン!」


「うわ!なに!?なんか液体が飛んできたけど!」


「それは俺の手汗だ」


「え!キモ!なんで!?なんで手汗飛ばしてきたの?」


「お前が進行の足を引っ張るからだ」


「ええ。でも手汗て」


「いいから続けろ」


「ええと、キャラ立ちね」


「それだ!」


「どれ?」


「ダブルゥレップーケーン!」


「うわ!クソ!汚い!」


「キャラ立ちの話だよ」


「そうね。でも口で言っても良いんじゃないかな」


「お前が聞き分けがないからだろ。母国くにじゃとっくに殺されてるよ」


「嘘でしょ!?」


※嘘です。




「いいか。キャラクターってのは物語の要のひとつだ。魅力そのものと言ってもいい。大筋がそこそこでもキャラクターの魅力で作品の人気が出る場合もある。とても重要なポイントだぜ」


「それはそうだね」


「バカヤロウ!スカしてんじゃねえ!そんな軽いことじゃねえぞ!」


「いや、別にスカしてないよ。ただ、これに関しては僕の作品は結構自信あるかなって‥」


「レップーケーン!!」


「うわ!」


「お前の小説のキャラのどこに自信があるんだよ。設定なんかガバガバじゃねえか」


「え!?そんなことないでしょ」


「主人公が第一話から中盤くらいまで使ってた口癖を何故か途中で使わなくなり、終盤も終盤の方でいきなり思い出したかのように使い出す。これの何処がブレていないと?」


「グッ」


「主人公さ。いいヤツだか悪いヤツだか分かりにくいよな。うん。ストレートに言うと、全体的に分かりにくい」


「やめて!解ったから!」


「うん。便所紙の話はここまでにして。じゃあ討伐の話をしよう。例えばアレに出てくるキャラだが、序盤ではどんな奴がいた?」


「えーと。異世界からきた勇者。まだ強くないけど素質と優遇措置あり」


「はい」


「魔法使いのちっぱい。名門の家柄出身だけどまだ未熟。恐らくツンデレ」


「はい」


「剣王の娘の巨乳。二大派閥の片方のトップの娘で素質あるけどあえて自分んとこの剣術を使わない」


「それから?」


「あとは語り手の回復役。結構強くて頭も良いけど、パーティに不満あり。自分本当の実力は仲間に隠している。本作の語り手。こんなとこかな」


「ふむ。ま、なんだな。本当に導入部分しか読んでないな」


「仕方ないよね。いつでも読める環境って、逆に手が出づらいっていうかさ‥‥」


「★6000の作品でそう思うなら、お前の小説なんてもっとそうだろうよ。読者にとってお前の小説なんざ、フタの裏にわずかに付着したアイスクリームと一緒だ」


「どゆこと?」


「好きなヤツだけが辛うじて舐めていくレベル」


「ぐう‥‥」


「で。このキャラクター達の設定を見ていて。現時点で気が付いたことは?」


「ん〜、分かり易い設定ってこと?」


「他には?」


「えーと。なんだろ」


「バーンナッコウ!」


「ばおッ!」


「だからもう少し読めって言ってんだろ!いいかこれら全てはな、お前が数行で説明できるほど簡単な割に、あらかじめちゃんとした奥行きが作られてるんだよ!」


「奥行き?」


「たとえ話だけどな。今後の展開を期待させる初期設定が為されているんだよ」


「へえ」


「スカしてんじゃねえっつてんだろ!いいか!語り手以外の全員がレベルは低いけどかなりの素質を匂わせている。これはな、この後この人たちメッチャ強くなっていきますよって言ってるようなもんだ。読者はそういう登場人物達の成長を見るのが好きだ」


「なるほど。それは僕もそうだな」


「だろ?レベルが低い。才能はあるけどその才能は使いたくない。環境には恵まれてるけど経験が浅い。とある理由から本当の実力を明かさない。これらは足枷ではあるが、同時に成長のフラグでもある。主人公たちが困難にあえばあうほど、物語は盛り上がり彼らの成長も描きやすくなる」


「そうだね」


「あるいはこれとは全く逆に、初めから主人公ないし登場人物が全体的にクソ強い設定もある」


「俺つええええええみたいな」


「そうだ。しかしそう言った無双設定でも、なにがしかの足枷が用意されている場合がほとんどだ。むしろそうでないと主人公たちが万能過ぎたら盛り上がりに欠けてしまうからな」


「まあね」


「一番いけないのは中途半端な設定の仕方だ。強いんだか弱いんだかよく分からない。足枷があるんだかないんだか分からない。総合的にいうと解り辛い」


「耳が痛い」


「テンプレでもなんでもいいだろ。いきなりハードルを上げるな。ひとまず分かり易い設定でキャラを構築しろ。そして必ず足枷をつけろ。分からなかったら他人様のを参考にしていいんだから。いいか?『大いなる本物はまず偽物から始まる』っていうだろ」


「誰が言ってたの?」


「海原雄山」


「‥‥」


「‥‥」




「いいか、創作に関して俺が言えるのは『無限こそ有限。有限にこそ無限がある』ってことだ」


「勧誘ならお断りです」


「違うわ!バカ!ハナクソ!」


「ハナクソ!?」


「これはな。『一見限られている様に見えるものこそ、無限の可能性と幅広さを秘めている。逆もまた然り』という意味だ」


「じゃあそう言えばいいじゃん」


「カイザァーウェイ!!」


「うわ!またなんか液体とんできた!なにこれ‥なんか変な臭いがする!もしかして薬品かなん‥」


「俺のワキ汗さ」


「死ね!なんか靴下に入れたままのスルメイカみたいな臭いするわ!」


「ラテン男の芳香フレイヴァはみんなこんな感じだぜ?」


「嘘でしょ!?」


※嘘です。





「とにかく、限定された設定の中でこそ自由な発想が活きるんだ。何でもかんでもやりたい放題だと、逆に発想も縮こまるからな。キャラクターや設定をちゃんとするってことは、小説における基礎を固めるってことなんだ。いいか?お前の小説世界において、お前はいわゆる神なんだから。ちゃんとした囲いを作って、その中で登場人物達を自由に遊ばせろ。そうすれば、自ずと作品は盛り上がる」


「木村さんの言ってること、解るよ」


「よかったぜアミーゴ。勉強を続けろ。やっといて損になることなんてこの世に存在しない」


「ありがとう。もう少し討伐を読み込んでみるよ」


「そうしろ。じゃあ俺はそろそろ行くぜ。5時に夢中!の時間だからな」


「オッケ。またね」


「アディオス、アミーゴ」


「じゃあね木村さん」


木村さんがフワッと消えかかる。


「おっとそうだ!もうひとつお前に言っておきたい事がある」


「なに?」


「俺が5時に夢中!のファンなのは知ってるな」


「うん。それが?」


「5時に夢中!にはマツコデラックスとか岩下尚史とか、いわゆるオネエキャラがよく出てるんだよ」


「はいはい」


「それでさ、ある時ミッツマングローブが出てて思ったんだ」


「うん」


「俺、もしも酒が入ったらミッツでもワンチャンあるかなって思った」




知らねえよ。



僕は心からそう思った。



理由2

「キャラ・設定等の造り込みが甘い」

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