第15話 新たなる旅路へ
翌日。
「やはり行ってしまうんですね」
ケニーが残念そうに言った。
一同はケニーの家に一泊し、朝になってから出立の準備を済ませ、別れの挨拶を交わしていた。
ここは街の外れである。昨日までと違い、灰が無くなって遠くの山々まで見渡せていた。これで道に迷うことなく次の街へ行けるだろう。
「うん。この地域の侵蝕は食い止めたから、また別の地域に行くつもり」
キクが応じる。
ふと街の喧騒が五人にまで伝わってきた。いきなり灰が止んだことで、街の人々は活気を取り戻しつつある。今は、降り積もった灰の除去作業で街中が騒がしい。
このカルナを救った四人の存在を知るのはケニー一人のみである。そのことを公表すれば賞与や名声は思いのままであるはずだが、アグレイ達がそれを望まぬというのでケニーも黙っていることにした。
「しょうがないですね。みなさん、そうやって旅をしているんですもの」
「名残惜しいですな。それでは僕がその気持ちを詩にして……」
「ユーヴ、そんな時間はありませんのよ」
「ユーヴさんの詩は、また今度聞かせて下さいね」
それとなく女性陣から拒絶され、ユーヴは肩を落とす。
「ケニー。大丈夫か」
漠然とした問いを放ったのはアグレイである。ハーヴィのことがあって、ケニーを心配しているのだろう。
言葉足らずなアグレイの問いを受け、ケニーはその心情を汲みとったようだった。
「はい。大丈夫です。この街も平和になりましたし、一人でもやっていけます」
「そうか、無理するなよ」
そう言ってアグレイは踵を返した。
「キクさんの言った通りですね」
「へ? 私、何て言いましたっけ」
「アグレイさん。見た目ほど悪い人じゃないって」
「あはは、そうなんですよ」
一度言葉を切ってから、ケニーは改まった口調で言った。
「本当にありがとうございました。カルナの街を代表して、お礼を言わせて頂きます」
「……それじゃあ、また会いましょう」
「幾久しく健やかに、ですわ」
「うむ。それでは」
口々に言い置いて、三人ともアグレイの後を追っていった。
その背が視界から消えるまで見送った後、ケニーは空を見上げた。
数年振りの青空には、宝石に光を当てたように輝く太陽が目に眩しい。これまで停滞するだけだった灰色の雲も、今では白く清らかに流れて行く。
「本当に綺麗な青空ね。……ハーヴィ、あなたも見てる?」
灰とともにこの世を去った恋人に呼びかけると、ケニーは一対の首飾りを高々と掲げた。
『侵蝕』「灰よ、あの人に告げて」 小柄宗 @syukitada
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