そして時は動き出さない

タイムトラベルもの。
この手のお話は、ちぐはぐだった時間軸のつじつまが噛み合ったときにカタルシスを得るものですが、そうしたセオリーを踏襲しつつも、微妙に外して妙味を引き出した良作です。

というのも、タイムパラドクスの一つとして、不思議な時計が登場するのですが、これが出自不明なんです。
未来の彼女が授けてくれた、特別な時計。ではその彼女はどこから手に入れたのかというと、成長した主人公が未来の彼女にプレゼントしたもの…という。
この時計がいつ作られたのか判らないまま、時間を輪廻しているんです。
作者はあえてそれを放置しました。作中にも書いてありますから、わざとです。
あえてパラドクスを残しておくことで、レトロなSFの味を出そうとしているように感じました。
主人公と彼女の出会いが明かされ、その直後に訪れる結末もまた、暗転入滅して終わります。彼女のタイムトラベルの秘密も明かされません。
でも、これはこれで良いのです。
だって、SFは空想科学です。空想できる余地が欲しいじゃないですか。

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