最終話・誘導した者達の別離「ここからが始まり」
隣町某所。
「これで……全部あんたの思い通りってわけ?」
少女が『てんさい』の元に姿を現した。
開口一番に放った少女の言葉。
それを無視してほくそ笑む『てんさい』の表情に困惑が走る。
「随分と泣いた……いや、あんたもしかして笑ってへんか?」
願いが叶って男と壮絶な別れ方としたと、小耳に挟んだところだったのだ。七夕の伝説は本物だ。少女の願いは通ったはずで……絶望し、涙を流して泣き叫んでもおかしく無い心境のはずだ。
何か転機があったのか。いや、あったのだろう。
微笑む少女の顔に、絶望はなかった。強い、眩しいほどの希望が満ちていた。
その目が凄む。
「誤魔化さないで、この事件。一番役得なのはあんただったでしょ」
「へぇ、そこまで解ってるなんて、恵美ちゃん以来の秀才やねぇ」
「ここまでヒントを出されたら、誰だって解るわよ。外に居たの……松塚さんの秘書の人でしょ? 彼女もあんたの手先だったってわけね」
「菱佳ちゃんはよく働いてくれたよぉ」
『てんさい』は、意地悪く笑う。
「やっぱり、一人で行動するなって警察に言われている中、松塚さんが一人で山頂に登ったのは、菱佳さんが関係してたわけね。松塚さんにも、死んで欲しかったのかしら?」
「そういうことになるなぁ。でもまぁ松塚の小僧は汚職で失職は免れへんやろうし、森の小僧も刑務所行きでもうおらへん。寺が殺されたんは痛手やけど、恵美ちゃんもこの世におらんとなると、磐舟村のブレインは殆ど村を去ったっちゅうわけや。残ってんのは村長だけ。ホンマ、願ったり叶ったりやなぁ」
つまり、軽口で言っていた磐舟村の乗っ取り。
『てんさい』は手を汚さずに駒を進めたことになる。
「……」
全体を俯瞰して、美味しいところだけ持っていこうとしている『てんさい』を睨んだ。
「それもこれも、あかりちゃんのおかげやわぁ。小僧に暗渠の場所を教えろぉ言われたときは何事か思ったけど、結果的には事件も解決して磐舟村もスカスカ。ウチの計画も、新しく進められるっちゅうわけや」
「天災め……」
舌打ちする少女は、彼女に協力を頼んだことを少し後悔する。
「そないなこと言わんといてぇや。ウチのおかげで事件の解決が早くなって七夕祭が開催できたし、あかりちゃんのおかげでウチの計画も前に進む。利害の一致やろぉ?」
「……えぇそうね。でも、これを渡して協力は終わりよ」
少女が取り出したのは神器。血に濡れた短刀である。
「うんうん。その神器が手に入ったらウチは十分。ありがとうなぁ、あかりちゃん」
クスクスと意地悪く笑う。
だが、少女は極めて冷静に質問した。
「まさか、御霊祭にも介入するつもりじゃないでしょうね?」
「そのまさかや。ブレインもおらん小さな村は、そろそろウチが助けたろうって話や」
『てんさい』が神器を受け取るのを確認しながら、少女は釘を刺す。
「あんたが何を企んでいるのかは知らないけれど、これ以上あんたに都合よくいかないと思っておきなさい」
「へぇ、もしかしてあかりちゃんの目に、希望が宿っとんのと関係あるんかねぇ。一体ここに来るまでの間に、何があったんやろぅかねぇ」
心の奥底を見透かすような目。油断すると圧倒されてしまう洞察力。
だが視線の先の少女は、皮肉を込めて告げる。
「てんさいにも、分からないことがあるのね」
そして宣言した。もう迷いは無い。
「貴方の企みは、私と彼で潰してあげるわ」
村の底力、そろそろ『てんさい』にも見せてやらねばならないだろう。
少女は『てんさい』の元を発つ。
新たな火種『御霊祭』は、一ヶ月後に迫っていた。
〈七夕革命殺人事件・完〉
七夕革命殺人事件 夏葉夜 @arsfoln
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