女であることを隠し王となった少女が、女装した美少年を王妃に迎える、魅惑的な設定です。
男装の麗人のお話は多くても、女装の姫君というのはちょっとめずらしいです。
『とりかへばや物語』でも女装の男君は女御にはなりませんでしたしたしね(笑)
しかし、読み始めると、とても重く、しかし普遍的な問題に通じるお話でした。
王妃となる少年はアルビノ、つまり、先天的な疾患により、並外れて色が白かったのです。
彼の母親も周りも忌み嫌ったり、或いは珍獣のように見たり。
彼は深く傷つき、ときに傷ついていることも忘れている程の、傷を抱えています。
「少年が王妃となる」という奇想天外な設定と、「ありのままの自分を受け入れる」という、普遍的な成長物語が交錯するところに、この物語の面白さを感じます。
現代の障害者問題や差別問題の本質でありながら、異世界ファンタジーとしての美しさや悲しさを損なわない筆致です。
重いテーマでありながら、さくさくと読ませてくれる文体。
特に、「ナジュム」という人物の言動は、辛い場面も、次へと読み進めさせてくれる力となりました。
魅力的な人物がたくさん登場し、すでに掲載されている外伝を読むのが楽しみです。
セフィーはアルビノとして生まれ、親からも充分な愛情を貰えずに育った美しい少年です。
そのセフィーが。
ひょんなことから男装の王シャムシャと出会い、国の王妃となるお話なのですが……。
壮大な歴史物語であり、政治の権謀渦巻くお話で。
朝からずっと一気読みしてしまいました。
一気読みしながら……。
物語の冒頭から最後まで、ずーっとセフィーに言ってやりたかった。
ずーっと励ましてやりたかった。
よく見てご覧、世界は美しいんだ、と。
この世界が美しいのは、個性があるからなんだ、と。
セフィーという個性があり、ほかにもいろんな個性があるから、この世界はいろとりどりなんだよ、と。
いろんな光があるから、世界は美しいんだ、と。
その言葉を。
セフィーは、ちゃんと、ご褒美としてもらいます。
死なず、耀いて、生き続けたご褒美を、この作者様はちゃんと用意してくださっていました。
セフィー、シャムシャ。どうぞお幸せに。
蒼き太陽がさんざめく王国で、女王陛下は歴史を欺いた。
彼女がたったひとり娶った妃は、ましろくうつくしい少年だった――
そんな物語において丁寧に辿られるのは、少年と少女のぎこちなくてつたない恋のはじめから終わりまで。
『マーイェセフィド』は壮大な歴史、あるいは王権を巡る謀略を切り取った作品ではありません。
けれど、二人がただただ暖かい関係を育むには、世界はどうしようもなく理不尽でした。
そして理不尽であるがゆえ、この作品は確かに恋物語である、と読み手に感じさせます。
(以下、物語の核心・決定的な展開には触れない程度のネタバレを含みます。ご留意ください)
少年の名前はセフィード。
彼は蒼い髪の少年王が君臨するアルヤ王国で、『化け物』として生きてきました。
うつくしくとも、真摯であろうとも、彼は確かに人間ではない、『化け物』でした。
髪の色が、瞳の色が、肌の色がアルヤの民とは違う。理由はそれだけで充分でした。
シャムシアス四世――という名前で玉座に縛られた少女のもとへ、彼がたどりつくまでは。
ある夜を境に、セフィードは女を装いながら、王の後宮に仕えることになります。
あるじは、王国を統べる『少年王』――を、騙らざるを得ない女王陛下。
シャムシャという名前の姫君として、きっと幸せに生きてゆくはずだった道を断たれた少女です。
一見、対極であるはずなのにどこか似通った彼らは、王位を巡る争いのなかでもがくうちに、わずかずつ距離を縮めていきます。
それは相手と話をしてみたり、相手の為に懸命になったり、相手の望むことを、喜ぶことを考えてみたり――そんな人としては他愛ない行いの積み重ねによって。
けれど女を装うこと。男を装うこと。立場に見合った姿を装うこと。それから、人間を『装う』こと。望もうとも望まずとも、誰かがなにかを装う以上、その時、本性は装った結果とは違ったところにあるでしょう。
セフィードはシャムシャのもとに辿りつくまで、ただただ、『化け物』でした。人間として扱われない存在でした。
いえ、彼は確かに人なのです。しかし、社会も、他者も、彼自身もが――彼を人間だと、『化け物』ではない人間なのだと、信じたことはありませんでした。
そして、彼自身が持つ『化け物』という己への価値は、社会や、他者から被せられた彼の『化け物』という装いであることを、セフィードは知らないのです。
人は生まれながらに人です。
けれどその価値観を定義づけたのもまた人なのです。
この世界、この物語のはじまりのアルヤ王国においては、人のくくりの定義は、私たち読み手が持つ定義とは異なり、社会に所属して初めて適用されるもののように感じました。
つまり社会から弾かれたセフィードたちは、私達なりに言えば人として生まれながらに、人間としての尊厳や価値をおのれらですら認めていなかったのです。
彼が恋を知るまでは。彼女が彼を知るまでは。世界は優しいと知るまでは。
……『マーイェセフィド』の物語は、だからこそ、少年と少女の恋物語であると感じます。
決して甘やかではないその恋を軸に、苛烈な現実や、理不尽な価値観や、時に傷ましくすらある世界が浮き彫りになります。
それでも、いつか世界が優しいものとして、二人の双眸に映るならば。
それはきっと、その『いつか』において、世界には優しいものがあることを、二人、知ることができているからなのでしょう。
理不尽な世界で二人が人間になるために必要だったのは、きっとそれぞれに手向けあった恋でした。
けれど尊厳ある人間として二人が生きてゆくために必要だったのは、きっと恋ひとつきりではなかったのだろうと、感じさせられます。
最後になりますが、完結おめでとうございます。
忘れられない作品を、ありがとうございました。
姫であった自分を死んだことにされ、男として王へとおしあげられたシャムシャ。
白い髪、白い肌、その容姿から自分を人ではない化け物だと思ってきた少年・セフィー。
国の頂点にいる少女と、その底辺にいる少年。
まったく違う境遇でありがなら、どちらも孤独だった。
本来ならば出会うこともなかった二人が出会って、頑なだった女王の心はほどけていく。生まれの違いゆえのすれ違い、本来王となるはずだった兄との確執、さまざまな困難を超えて迎えた結末には、本当に「ありがとう」と「おめでとう」で溢れていた。
――世界は二人に優しかったか?
それまでの世界は、決して二人にとって優しいものではなかったと思う。厳しく、つらく、静かに長くとどまる嵐のなかにひとり放り込まれていたようなもので。
けれどその嵐のなか、誰かが手を差し伸べたり、隣に誰かがいるのだと気づいたり、自分がひとりではないと気づいたときに世界は少しずつ変わっていく。
――世界はこれからの二人に優しいか?
きっと二人が、みんなが、笑いあえる日々が続くのなら。
世界はきっと優しく微笑み返すだろう。
多彩な人物が登場するペルシャを感じられる宮廷が舞台のストーリーです。これだけの多くのキャラを書き分け、なおかつキャラの魅力を出せる、体温を感じられるキャラを描けることはすごいことだと思います。作者氏の実力の高さを感じます。陽の当たらない場所から、あることをきっかけとして宮廷に入った心の清らかな女装少年(守ってあげたくなるかわいさ!)と心がかなり荒れつつあった男装女王、ふたりがこれからどのように心を通いあわせていくのか楽しみです。そして、ナジュムがどういう役割を演じていくのか――これもまた楽しみです。
2月11日読了加筆
ラストまで読み終わりました。中盤から後半にかけて苛烈なストーリーに読み進めるのが辛くなることもありましたが、最後はふたりに穏やかで幸福な日常が訪れてくれて、本当にホッとしたというか、心が温かくなりました。まさに、春が訪れたといったラストでした。そして、ナジュムはやっぱりいいキャラでした。面白いだけじゃなくて、やるときはやる。人間味溢れる理想の男性だと思います。
アラビア風の煌びやかな美しさの裏に隠された、権謀術数溢れる世界を見事に描き切っている作品だと思います。
その魅力にすっかり取りつかれてしまい、続きが気になってしまって仕方ありませんでした。
日の当たらない場所で自分の異質さに怯え、必死で生きる少年。
自分の性別を偽ってまで、国のしきたりに縛られる女王。
そんな二人を中心に、物語中には様々な立ち位置のキャラクターたちが出てきます。
皆それぞれに魅力的で、信念を持って動いている人たちです。
誰が悪いとか、いいとかじゃなくて、己の実力と信念を信じて動いた結果なのだ、と結末を見て感じました。
何より、男装女王様がとってもかっこいい!!本気になったときの男らしさ№1です。
彼女の容赦ないかっこよさに何度も胸がときめきました。
それに女装美少年がすっごく可愛い!!ザ・守ってあげたい系!!
ほんとうに、女装美少年の純粋な可愛さに癒されます。癒し系美少年。
小動物みたいで、すっっっごく可愛いです。
緻密に編み上げられたストーリーと、魅力的なキャラクターたち。
ぜひ色んな人にお勧めしたいな、と思ったお話でした。
素敵な物語をありがとうございました!
蒼と白が混じりあう。衣服、匂い、揺れる金銀の装飾、油灯の影を追いかけずにはいられない。瞼を閉じれば色とりどりの灯篭が無限に広がるような。
毎日読まずにはいられない。それほど、この作品の虜になってた。
印象に残る場面を、ひとつ上げるとするならばハヴァース元王太子の処刑が実行される一幕。
息をのみ夢中で文字を追いかけた。ついにシャムシャは、自身を覆っていた天蓋を燃え落としたのだ。自分の心を焼き払うに等しい行為だったと思う。けれど、シャムシャの愛の烈しさが如何ほどか読者に響き渡る情景だった。
兄妹が、最期に瞳を交わす。
そしてハヴァースは、愛を告げた。呪いと言う名の、嘘偽りのない愛を。この愛は、シャムシャの命の灯が消える瞬間まで、息づくだろう。
全編通して一番考えたのは「夢のかたち」についてである。ラストシーズン、ライルを軸に様々な夢が交差する。皆一様に「いつかライルは草原に帰るのだ」と夢見て疑わない。
果たしてライルにとって、草原に羽ばたくのは、叶えたい夢なのか。皆がライルに夢を託している。けれど、ライルはどうだろう。人の夢は変わる。生きていると、否応なしに「叶えたい」から歩んできた現実にぴたっとくっついた足を見て苦く笑って「遠い憧れ」に変化する。勿論、是が非でも叶えるものも「夢」だ。
ライルは北方の草原の血を弾く戦士だ。同じように、アルヤで育ち、シャムシャ、ライル、ルムア、セフィーを大事に思っている。その彼が、放っておいたら何をしでかすか分からない、愛する友人たちを置いていける気がしない。ハヴァースとセターレスへの敬愛の大きさを知ればなおさらである。
自分に最も合った「夢のかたち」は生きていればやわらかく変化する。分岐点に立つたびに、選んで進んでいく。それが、生きていくことなのかと私は考える。この物語で、生き残った者たちはまた選択し、歩いていく。
シャムシャとセフィーもこれから何度も世界に問いかけるだろう。それも、生きているからこそだ。
世界は優しいだろうか。問いかける。現実に生きる私たちも常々世界に聞きたくなる。
生きるって、どんなことだろう? 苦しいし、痛いこともあるよ。
愛するって、どんなことだろう? 苦しいし、痛いこともあるよ。
世界は背を向ける。時にはがらがらとその姿を壊すこともある。
それでも、その横顔は微笑んでいる。
たまには、悪くはないことも、あるでしょう?
世界を歩いて、自分で見つけるんだ。
難しかったら愛しい人と手を繋いで。
眩しすぎる陽の光に、目が眩んで苦しくても、月がかならずその御手でやわらげてくれる。
こぼす涙は世界の雨に。そして、呪いは愛になった。
『マーイェセフィド』を生み出してくださったしゃしゃさまに、心からの感謝をささげます。完結おめでとうございます。