世界が終わる、この恋を

蒼と白が混じりあう。衣服、匂い、揺れる金銀の装飾、油灯の影を追いかけずにはいられない。瞼を閉じれば色とりどりの灯篭が無限に広がるような。
毎日読まずにはいられない。それほど、この作品の虜になってた。
印象に残る場面を、ひとつ上げるとするならばハヴァース元王太子の処刑が実行される一幕。
息をのみ夢中で文字を追いかけた。ついにシャムシャは、自身を覆っていた天蓋を燃え落としたのだ。自分の心を焼き払うに等しい行為だったと思う。けれど、シャムシャの愛の烈しさが如何ほどか読者に響き渡る情景だった。
兄妹が、最期に瞳を交わす。
そしてハヴァースは、愛を告げた。呪いと言う名の、嘘偽りのない愛を。この愛は、シャムシャの命の灯が消える瞬間まで、息づくだろう。

全編通して一番考えたのは「夢のかたち」についてである。ラストシーズン、ライルを軸に様々な夢が交差する。皆一様に「いつかライルは草原に帰るのだ」と夢見て疑わない。
果たしてライルにとって、草原に羽ばたくのは、叶えたい夢なのか。皆がライルに夢を託している。けれど、ライルはどうだろう。人の夢は変わる。生きていると、否応なしに「叶えたい」から歩んできた現実にぴたっとくっついた足を見て苦く笑って「遠い憧れ」に変化する。勿論、是が非でも叶えるものも「夢」だ。
ライルは北方の草原の血を弾く戦士だ。同じように、アルヤで育ち、シャムシャ、ライル、ルムア、セフィーを大事に思っている。その彼が、放っておいたら何をしでかすか分からない、愛する友人たちを置いていける気がしない。ハヴァースとセターレスへの敬愛の大きさを知ればなおさらである。
自分に最も合った「夢のかたち」は生きていればやわらかく変化する。分岐点に立つたびに、選んで進んでいく。それが、生きていくことなのかと私は考える。この物語で、生き残った者たちはまた選択し、歩いていく。
シャムシャとセフィーもこれから何度も世界に問いかけるだろう。それも、生きているからこそだ。
世界は優しいだろうか。問いかける。現実に生きる私たちも常々世界に聞きたくなる。
生きるって、どんなことだろう? 苦しいし、痛いこともあるよ。
愛するって、どんなことだろう? 苦しいし、痛いこともあるよ。
世界は背を向ける。時にはがらがらとその姿を壊すこともある。
それでも、その横顔は微笑んでいる。
たまには、悪くはないことも、あるでしょう?
世界を歩いて、自分で見つけるんだ。
難しかったら愛しい人と手を繋いで。
眩しすぎる陽の光に、目が眩んで苦しくても、月がかならずその御手でやわらげてくれる。
こぼす涙は世界の雨に。そして、呪いは愛になった。



『マーイェセフィド』を生み出してくださったしゃしゃさまに、心からの感謝をささげます。完結おめでとうございます。

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