結 幸せだって金で買えるはず!

 時間通りに飛空艇まで戻り、全員が揃ったところで離陸した。


 中では、事前の話し合い通り、それぞれの収穫について話をしていた。どの冒険者も、レッサードラゴンを1,2体狩ったぐらいだったため、結局は均等に分配せずにそのまま金貨を持ち帰ることになっていた。


「…………」


 もちろん、ドラゴンの金貨については話していない。

 とんでもない秘密を抱えてしまい、気が気ではなかった。


 こんなこと、言い出せるわけがない。


(だ、だって……家一軒分だぞ……!?)


 しばらくの間、みんなに好きなだけ好きなものを食うことができる。服だってツギハギだらけのものではなく、流行にあったオシャレな服を着させることができる。一人一人が、大きくて温かいベッドで寝ることだって。


「…………」


 とはいえ、行く前に自分自身で考えた通り、これをそのまま教会に持って行ったところで直ぐに足がついてしまう。こうなったら、ほとぼりが冷めるまでは大事に保管しておき、どこか別の町で換金するしかないだろう。


 となれば、あとはボロを出さずに家に帰るだけ……。


 そう思い、町の近くで飛空艇を降りたまでは良かったのだが、とんでもないトラブルがすぐに舞い込んできた。


「お、おい! もう一度言ってくれ!」

「……?」


 他の飛空艇と連絡をとっていた操縦手が、突然に声を荒らげたのだ。


 何事かあったのかと耳を澄ませるまでもなく、情報がこちらまで飛び込んでくる。わざわざ復唱するかのように説明しているあたり、最初から聞かせるつもりで話しているのかもしれない。


「飛行船がレッサードラゴンの群れに襲われ、コントロールを失って落下中だと!? 既に“竜の巣”からは離れているだろう! どうしてこんな場所まで、レッサードラゴンどもが追って来るんだ!」


「え……」


 突然のことに、冒険者の中でもざわつきが起こる。

 心当たりのある者が、『もしかして』といろいろと話してくれた。


「どうやら、卵を持ち帰ろうとした馬鹿がいたらしい」

「まったく、余計なことをしてくれる……!」


 そんなこと、レッサードラゴンでなくとも激怒するに決まってる。子持ちや卵持ちの親ほど凶暴な生物もいないだろう。どんな影響が出るのか計り知れないため、手を出さないのが暗黙の了解となっているのに……。


 竜種の卵が、ルートによっては高額で捌けるとは聞くものの、金に目が眩んだ馬鹿がここで出てくるのは想定外だった。


「ど、どこに落下してくるんだ……?」


「乗組員が全員脱出しているせいで、レッサードラゴン次第ではあるが……このままでは街に落ちてくる可能性が高いらしい。それに――」


 そこまで話して、操縦手の顔が青ざめる。


「今回の作戦で使う予定だった大量の爆薬が残っている。町の半分以上が吹き飛ぶかもしれない。すぐに住民たちを避難させないと――」


「そんな……!」


 その場にいる全員が、息を呑んだ。


「どうにかして。エスクローに落ちてくる前に飛空艇を破壊できないのか!?」

「そんなことできるわけないだろう……! 大砲を何門用意したところで、不可能に決まってる!」


 これだけ冒険者が揃っていたとしても、手も足も出ない状況だった。飛空艇を破壊することができないのなら、手分けして住民たちを避難させるしかない。操縦手はすでに教会へと連絡を入れているようだった。


 この街の教会からなら、規模も大きいし町中に避難勧告が行き渡ることだろう。


「しかし……」

「これだと、エスクローへの被害は免れない……!」

「どうしろというんだ!」


 言い合いが勃発しかねない空気の中で――誰かがぽつりと呟いた。


……」

「――――っ!」


 息が止まるかと思った。それならまだ、手段が潰えたわけじゃない。


「お、おい! どこに行くんだ!?」

「あの町には、俺の孤児院があるんだ――!!」






「これ1枚で……家が建つ……」


 手の中にあるのは、ドラゴンの金貨。


 偶然に舞い込んできた大金だが、これさえあれば自分たちだけ避難した後で、孤児院を建て直すこともできるのだ。でも……それでいいのか?


「クソッ――!」


 この町には世話になった人たちが沢山いる。彼らのことを見なかったことにして、自分たちの生活のことだけを考えてもいいのか?


「いいわけ……ねぇだろうが!!」


 ――――。


「ルチル! みんなを連れて町から離れろ!」


 少し遅れてだが、孤児院にも情報が届いたようだ。不安そうな表情をしている子どもたちを、自分の次に年長者であるルチルが集めてくれていた。


「ルシードは……? ねぇ、一緒に逃げるんでしょ?」


 …………。


「俺は……やらなきゃいけないことがある。この世界で生きていくには、甘い考えなのかもしれないけど……。俺はこの街が好きだからな。できることなら守りたい」


「それは……お金のため? それとも命のため?」

「……どっちだろうな。終わったあとで、ゆっくり考えるさ」






「さて、視界は良好――」


 あっという間に閑散としてしまった町の中心で、一人空を見上げる。


 徐々にその大きさが増していく飛空艇。どうやら既に落下が始まっているようで、大量のレッサードラゴンと共に高度を下げていた。


 ――チャンスはたった一回。

 このドラゴンの金貨が不発だったら、俺の命はここで終わりだ。


 普通ならば、何度か試して能力を見極めるのだが、ドラゴンなんて出会うこと自体が一生に一度きりだろう。まさに、一発限りの出たとこ勝負だった。


「あばよ、夢の金持ち生活!」


 ――チャリン。


 小気味の良い音を立てて、金貨が投入口へと吸い込まれた。

 これまでにない、ぶるぶるとした振動がゴゥレムから伝わってくる。


 両腕を左右に大きく開き、天を仰ぐようにして、ぐいんと胸を空に向ける。


「こうなりゃ自棄だ! どうとでも……なりやがれぇぇぇぇ!!」


 ガチャン、と現れたのは巨大なドラゴンの頭部。……いや、よく見れば砲塔のようになっていた。集まり高まっていくエネルギーの感触に、俺は確信した。


 ――いける……!


火竜の息吹ドラゴンブレスだ!!」


 ドォッ――!


 とてつもない衝撃が、周囲の空気を震わせた。真っ直ぐに一筋の光線が、天空に伸びたかと思った次の瞬間、それを伝うようにして極太の円柱が砲塔から押し出されるようにして発射されたのだ。


 それは狙いを違うことなく、的確に落ちてくる飛空艇を撃ち抜いた。


「――――っ!」


 空中で『ドォォォンッ!!』と大爆発が起き、ドラゴンブレスの衝撃から波がゆり戻るかのように、空から倍以上の衝撃が襲ってきた。周囲の建物が音を立てて軋み、窓という窓が割れる。


 数秒の間だったが、ゴゥレムに押し付けられるような風圧に耐え続け――静寂が訪れたのを確認して上体を起こして周囲の状況を確認する。


「上手く……いったのか……? ――んん?」


 飛空艇はどうなったのかと、空を見上げたときだった。

 空から、何かがキラキラと光って落ちてきているような――。


 ……なんだ、あれは。いや、もしかして……?


「あれは――……! !!!」


 飛空艇の周りを取り囲んでいたレッサードラゴンも、一匹残らず姿を消している。恐らく――というか、考えるまでもない。あの大爆発に巻き込まれて、金貨へと変わったのだ。


「今なら町には誰もいない……。つまり――俺の総取りってこと!?」






「本当に怪我がなくてよかった。ルシードが死ぬんじゃないかって、みんなずっと泣いてたんだから」


 その日は、何事もなかったかのように静かな夜だった。町が半壊するような危機に瀕していたのが嘘みたいだ。割れた窓ガラスのせいで、夜風がお構いなしに入り込んでくるが、それすらも気持ちよく感じる。


「説明もしないままだったのは悪かったよ。でも……そのおかげで、当分は金に困ることはなくなった。……ほら」


 ジャラリと音を立てて、自分が逆さにした袋の中から大量のレッサードラゴンの金貨が落ちる。それを見たルチルは目を丸くしていた。


 レッサードラゴンの金貨がこれだけあれば、どんなことがあったって上機嫌というものだ。ドラゴンの金貨ならともかく、レッサードラゴン程度だったらどうとでもなるし。


 あの時、急いで町中を駆け回って、回収できるだけ金貨を回収した。

 ――といっても、流石に全部というわけにはいかなかったが。


「呆れた……やっぱりお金のためだったんだ」


 回収しきれなかった半分ほどの金貨は、誰かがネコババするか、教会に集められて、被害が出た家屋の修繕に回されることだろう。でも……別にそれでもいいじゃないか。


「金が一番大切だってのは、今も昔も変わりはしないさ」


 金さえあれば、助かる命だってある。

 俺と相棒のゴゥレムの場合は特に。


 だから、俺はこれからも金を集め続けることだろう。


 あの老竜が話していた、ルチルのことについては……また、別の機会に考えることにしようと思う。魔物の長とか、なんだか不穏な単語もあったが、気にすることはないだろう。


 だって――幸せな結末というのは、金で買えるはずなのだから。

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千変バンカー!~魔物の金貨で変幻自在!?スペシャルなゴゥレムで目指せ一攫千金!~ Win-CL @Win-CL

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