転 ドラゴン討伐作戦!
ドラゴン討伐作戦当日――
複数の飛空艇で一気に移動し、全員が地上へと降り立った。それぞれが腕自慢の冒険者たち。双子の剣士や、自分でもそこそこ名前を知っている魔法使い、自前で飛空艇を用意した金持ちなど、粒ぞろいの魔物狩り集団だ。
情報を提供してくれた仕事仲間は来なかった。流石に空を飛ぶ魔物を相手にするのは苦手らしい。というわけで、多少なりとも肩身の狭い思いをしながらの移動だった。
「いるぞいるぞ……本命はまだ奥か?」
“竜の巣”から少し離れた丘の上で、遠目に見える小型の竜種の群れ。レッサードラゴンと呼ばれた魔物は遠目に見ても凶暴そうな外見をしている。
「4時間後にはここを離れる。それまでに、この地点まで戻ってこい。遅れたやつは置いていくからな」
「あぁ、分かってる」
「レッサードラゴンだって十分に大物さ。ここらで多少稼いでおくかね」
『4時間でどれだけ稼げるか』なんて話をしながら、それぞれが散っていく。能力によって魔物の狩り方も変わっていくだろう。互いが互いの邪魔をしないよう、もしくは連携を取りやすいよう、迅速に動き始めた。
「俺たちも行こうぜ、相棒……!」
――チャリンッ。
周りに人がいないことを確認して、ゴゥレムに金貨を投入する。
事前に狩って貯蓄しておいた、鳥型の魔物の金貨である。これを投入してどうなるかというと――なんと翼が生えて飛べるのだ。あくまで効果は一時的なもので、十分程度で元通りになってしまう。いわば使い捨ての能力である。
偶然拾った“装置”をゴゥレムが取り込んでしまい、使えるようになったこの不思議な能力。出所は不明だし、分解しようとすればゴゥレムが使い物にならなくなるブラックボックスだった。
あまり能力をまわりに知られても問題になると思い、隠してはいるのだが……これによって狩りが格段に楽になったのは言うまでもないだろう。
鳥型の魔物の金貨を使えば、一時的に空を飛ぶことができる。植物型の魔物の金貨なら、ツタで対象を絡めとることもできる。高いところから落ちても、スライム型の魔物の金貨を使うことで落下の衝撃を吸収することもできた。
変幻自在に動けて、これほど便利な能力もない。
――が、強いて言うならば一つ大きな問題がある。
「これ1枚で……1日3食の食事分……」
能力を使うごとに所持金が削られていくストレスは半端じゃなかった。
1時間後――
「ふふ……これがレッサードラゴンの金貨か……!」
とはいえ、レッサードラゴンの金貨ならば、倒すのに複数枚の金貨を使っても収支的にはかなり大きなプラスになる。これ1枚で、先日の稼ぎの数倍にもなるのだ。
1匹だけを引き離したところまでは好調だったが――追いかけ回し、追いかけ回され。疲労度はすごかったものの、負傷せずに上手く狩ることができたのは事実。とりあえずは、これだけでもこの作戦に参加した意味はあったと胸を撫でおろした。
「さて、割と深いところまで来ちまったな。近くで狩ってる音も聞こえないし……この辺りにいるのは自分だけか?」
深追いしたせいで、他の冒険者たちとの距離が離れてしまったらしい。今の手応えぐらいなら、帰還の時間に間に合わないことも、魔物に襲われ野垂れ時ぬことも心配する必要はないだろう。
――チャリンッ。
それでも念のため、周りに人がいないかどうか、コウモリ型の魔物の金貨を使って周囲を探索してみる。音波かなにかを発して周囲を探り、その結果がゴゥレムの表面にボコボコと波打って現れるのである。
「……ン」
なにやらデカい反応がある。当然ながら、人ではないようだ。身動きをほとんどしていないということは、弱ったレッサードラゴンだろうか。
「ここから10分ほど潜れば辿り着ける場所だ……」
ここで追加報酬でも頂いておくかと、向かったのだが――
「……ヒトの子か。なにやら懐かしい匂いがするな……」
深緑色の大きな鱗が並んだ身体。長細い顔には鋭い牙が並び、大きな角が存在を主張する。なにより大きな翼は、先ほど見たレッサードラゴンとは比べ物にならない。
なにより、レッサードラゴンなんかがヒトの言葉を話すはずがない。
……いや、そもそも会話のできる魔物なんてものが存在するだなんて。
「ま、マジもんのドラゴン……!?」
本来ならば竜種特有の縦に切れ目の入った瞳がそこにあるのだが、水晶体がぼんやりと濁ってみえた。老齢のドラゴンが、全身に怪我をした状態で倒れている。
しかし、ドラゴンの方は暴れる様子もなく。クンクンと何やらこちらの匂いを嗅いでばかりいるようで、何をしてくるつもりなのか分からない。下手に動くことができないでいる自分を気にした様子も見せず、ドラゴンが口にしたのは――
「この匂いはルチル様か……無事であられたようでなにより。傍にいて守れなかったことだけが後悔の鎖となって儂を縛っておったが……そうか……」
突然に自分も知った名が出てきたので困惑してしまう。
「お、おい……! 何の話をしてんのか分かんねぇよ!! ルチルがなんだって!? お前は魔物で、ドラゴンだ! ルチルと何の関係がある!?」
「あの子は……我々魔物の長であった方の一人娘だ。逃げ延びて人里に潜んでいるだけ耳にしたが……。……小僧。藪から棒に襲ってこないだけ、お前は他の奴よりはまだマシな奴らしい。多少頼りないが、どれだけ文句を並べたところで栓無きこと。お嬢様を……任せたぞ……」
「お、おい! 何勝手なこと言ってんだ! 俺は全然納得がいってないぞ!?」
偶然出会って、『ルチルを守れ』だのなんだの言われたって、何のことだかさっぱり分からない。せめて、もう少しマトモな説明をして欲しいのだが、その老竜ももう長くはもたないらしい。
「――――」
力なく頭を垂れ、そのままゆっくりと首から地面へと倒れ込んだ。目を閉じたその数秒後には、キラキラとした光へと変わり、自分にとっては馴染みのある、金貨の形へと変わっていく。
「嘘だろ、おい――!」
慌てて走り寄って、金貨を拾い上げる。
その表には、雄々しく立ち上がり腕を上げたドラゴンの絵があった。
どうしよう……。
「ドラゴンの金貨……手に入っちまった……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます