色々と想像できるすれ違い恋愛小説。物語の鍵は「電話越しの会話」

想像や妄想を膨らませることによって、色んな解釈ができる面白い作品だなと思いました。

この作品は、男である「大ちゃん」の視点で描かれていますが、ヒロインの知佳は電話越しでの登場で彼女の表情などは読者は分かりません(もちろん、大ちゃんも)。だから、表情の変化から感情が読み取れず、知佳が大ちゃんに電話で話していることのどこまでが本当なのかなと私は考えたのです。

知佳が大ちゃんに話したことは全部本当で、無自覚に大ちゃんに別の男の話をして「先輩とは順調やに」と言い、困らせてしまっているのかも知れない。

でも、もしかしたら、大ちゃんが「彼女ができた」などと嘘をついて知佳の気を引こうとしたのと同じように、知佳も大ちゃんの気持ちを試そうとしていたのかも知れない。
もしもそうなら、一体どこからが嘘だったのか。知佳は大ちゃん本人が思っているよりも大ちゃんのことを……? などという妄想の域を出ない考えがよぎってしまう。

いやいや、それは読み手である自分の希望がこめられたただの妄想で、知佳は会社の先輩に本当にお熱なのかも?

……分からない。全ては、電話越しの顔の見えない会話で生じたすれ違い。相手の表情さえ見えることができたら、ここまですれ違わなかったかも知れないのに……。
この「電話越し」というのがこの作品の鍵であり、知佳の心の内をミステリアスにさせている作者さんの魔法だと思われます。
短くも、鮮烈で巧妙な恋愛小説ですね。さすがは恋愛小説をたくさん執筆なさっている、ふたぎおっとさん……。

それにしても、大ちゃんは自分の気持ちすら把握できていないのだから、女の子の気持ちなんて分かるはずがないですね。もっと早く素直になっていたら……。

余談ですが、作者さんの作品に登場する男性には、根は優しくていい男なのだけれど不器用だったり素直じゃなかったり時にはヘタレたり……実に人間らしい男性キャラが多いので、作者さんの他の作品にも興味を持った方はぜひご覧ください。そういう男性が愛に目覚めて成長していく過程って、意外とキュンキュンさせられるんですよね。特に『戦犯の孫』のヴォルフ……(*^-^*)

素晴らしい好短編、ありがとうございました!!

その他のおすすめレビュー

青星明良さんの他のおすすめレビュー81