気心知れた男女。彼らの電話での会話がメインの物語。
物語事態は、男性目線で進んで行きます。
この二人、別に好き同士でも恋人同士でもない。いや、もしかしたら恋愛感情あるのかな?
意外と両片思いに似たような所がある? そうでもないかな?
お互い恋心に気づいてないパターン。
考え出すときりが無い。
まぁ、結論。私には分からないですね……。
少なくとも男性の方は恋愛感情は持ってなくて、それに準ずる、もしくは似たような、一歩手前の感情。そんな物を持ってるように見えます。
相手の女性の方も同じ感じなのかな?
そもそもここから間違ってるのかな?
この物語。読んでみて、読者が得られる情報量が多くないのです。
あれ? 電話の向こう、彼女は何を思ってるんだろう?
主人公の男性の心に移入するかのように、読者である私も、この作品に引き込まれていきます。
主人公の男性自身も自分が感じる感情に上手く名前がつけられない様子。
それを見て私も、何かモヤモヤを感じながら物語を読み進めていきます。
そして、ラスト。
あらまぁ、な所で話が終わります。
二人の交わした約束。そして、ラストに描かれる二人の会話。そこから考えうる未来にあるのは、幸福か、不幸か、それとも笑いか……。
色々と脳内妄想が止まらない私でした。
一言でこの物語の感想を言うと面白かったです。
遠く離れた場所にいる腐れ縁と共にある約束を交わした主人公。一見するとどこか面白おかしい約束は、そのあまりの壮大さ故か、次第に微妙な色に塗られ始めていき……。
離れた場所に暮らす2人を繋ぐ手段が限られている中、その中で自分を伝え合う事にはやがて限界が生じるもの。自分の事もはっきり掴めないのに、実際に会っても相手の全てを知ることはほぼ不可能に近い訳で、結果としてこのような思いが芽生えてしまうのは、あまりあってはならない事ですが、それでも結局は必然的だったのかのかもしれないですね……。
ですが、2人の今後を決めるのは読み手の様々な思いの中。
これからこの2人がどうなっていくのか、その複雑な思いや歯痒さもまた魅力的な恋愛作品です。
想像や妄想を膨らませることによって、色んな解釈ができる面白い作品だなと思いました。
この作品は、男である「大ちゃん」の視点で描かれていますが、ヒロインの知佳は電話越しでの登場で彼女の表情などは読者は分かりません(もちろん、大ちゃんも)。だから、表情の変化から感情が読み取れず、知佳が大ちゃんに電話で話していることのどこまでが本当なのかなと私は考えたのです。
知佳が大ちゃんに話したことは全部本当で、無自覚に大ちゃんに別の男の話をして「先輩とは順調やに」と言い、困らせてしまっているのかも知れない。
でも、もしかしたら、大ちゃんが「彼女ができた」などと嘘をついて知佳の気を引こうとしたのと同じように、知佳も大ちゃんの気持ちを試そうとしていたのかも知れない。
もしもそうなら、一体どこからが嘘だったのか。知佳は大ちゃん本人が思っているよりも大ちゃんのことを……? などという妄想の域を出ない考えがよぎってしまう。
いやいや、それは読み手である自分の希望がこめられたただの妄想で、知佳は会社の先輩に本当にお熱なのかも?
……分からない。全ては、電話越しの顔の見えない会話で生じたすれ違い。相手の表情さえ見えることができたら、ここまですれ違わなかったかも知れないのに……。
この「電話越し」というのがこの作品の鍵であり、知佳の心の内をミステリアスにさせている作者さんの魔法だと思われます。
短くも、鮮烈で巧妙な恋愛小説ですね。さすがは恋愛小説をたくさん執筆なさっている、ふたぎおっとさん……。
それにしても、大ちゃんは自分の気持ちすら把握できていないのだから、女の子の気持ちなんて分かるはずがないですね。もっと早く素直になっていたら……。
余談ですが、作者さんの作品に登場する男性には、根は優しくていい男なのだけれど不器用だったり素直じゃなかったり時にはヘタレたり……実に人間らしい男性キャラが多いので、作者さんの他の作品にも興味を持った方はぜひご覧ください。そういう男性が愛に目覚めて成長していく過程って、意外とキュンキュンさせられるんですよね。特に『戦犯の孫』のヴォルフ……(*^-^*)
素晴らしい好短編、ありがとうございました!!