作品は大切に育てた子ども

日常ミステリを現代ドラマで描いたら、理想型はこんな風になるかもしれない。
日常と事件をつなぐ媒介項。
その中心にあるのは人間と人間の〈関係性〉だ。

中学時代に"四天王"と呼ばれた卓球部の部員たちが、
上級生との対立により退部してしまった。
彼らを部活につれもどしてほしい――。
そんな依頼を受け、主人公は動き始める。
四人のキャラクターはどれも個性的で、魅力に満ち、
それぞれの特性をそれぞれの特性が補完するようにできている。

また、魅力的だと思ったのは、ちょっとした少女の描写が非常にリアルなこと。
「制服の中にパーカーを着込み、ブレザーの襟からフードを出した女子高生」とか。
ヴィヴィッドに浮き上がってきます。

本書は、非常に丁寧に練り上げられた一作です。
一個一個、部品を丁寧に組み上げていくように、物語を紡いでいく様が、切実な何かを感じさせました。
オリンピックで卓球のすごさが認知されたいま、
多くの人に読んで貰いたい一作です。
そういった意味でも旬な題材かもしれません。

個人的に刺さった台詞。
「先輩たちはね、強くなりたいというよりも、
北総高校卓球部というのに憧れていただけなの。
ただ単純に強い組織に所属して、強くなったと
錯覚したかっただけなのかもしれない」

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