第2話 嫁語る・2
ええ、覚えているわ、涼子さんが最後にお義母さんと会ったのは亡くなられる少し前だったわね。数日前から具合の良くない日が続いていて、いつ何があってもおかしくないっていう時期だったから私が連絡したんだったわね。涼子さんの姿を見たときお義母さんは嬉しそうだったわ。やっぱりなかなか会う機会のない娘に会えるとなると普段は見せないような素敵な表情をなさるのね。
私はあの時、お義母さんのことを涼子さんに任せて先に帰らせていただいたのよね。あの後何を話していたの?涼子さんが帰られた後もお義母さんはご機嫌だったから二人で普段話せないようなことをいろいろ話せたのね、きっと。
私の話しって何?涼子さんのことを話していたんじゃないの?
あら、えっ?そんな・・お、お義母さんがそんなことを・・・まさか・・・。あんなに頑張ったのに、生活をすべてお義母さんのために捧げてきたのに、どうしてそんなこと言われなければならないの?信じられない・・ひどいわ。
知らなかった・・・お義母さんがそんな風に思っていたなんて。私はただお義母さんのことだけを思って一緒に生きていたのに。
涼子さんはお義母さんの実の娘だから私の言ったことよりお義母さんが言ったことを信じると思うけど、私ははっきり言っておきたいわ。お義母さんが涼子さんに話したことはありえないわ。私を目の敵にしていたお義母さんの作り話しよ。
食事は毎日欠かさず三食作って召し上がってもらっていたし、食べられないときは介助をして少しでも食べてもらおうと努力したもの。病院の定期検診でも栄養失調なんて言われたことはないし、痩せたようにも見えなかったはずよ。ただ、お義母さんは昔から味の濃い食べ物や甘いお菓子がお好きだったけど血圧の問題や脳梗塞の再発防止のためにお義母さんが嫌いな塩分や糖分を控えた薄味の料理を出していたのは事実だわ。そしてお義母さんがそれを嫌って食が進まない日があったことも事実よ。だけど仕方がないでしょ?健康のためなんだから。涼子さんだって私の立場だったらそうしたはずよ?それなのに私が飢え死にさせようとしていたなんて言うのはあんまりだわ。
おむつ替えの件だってそうよ。私は一日に何度もおむつを変えたし、たまに使うポータブルトイレだって毎日掃除していたわ。涼子さんは知らないかもしれないけど、お尻の辺りは汗や湿気で褥瘡ができやすいところなの。私みたいな素人だと小まめにおむつ交換をして気を付けていても、できる時にはできてしまうのよ。それがわかっていたからおむつをまめに変えていたの。少しでも心地よく過ごしてもらうためにね。
それでもお義母さんは不満気だったわ。小言が多くて、おむつの締め付けがきついとか排泄がなくても肌触りが悪いからといって交換して一時間も経たずにまた交換しろと言ってきたりしてね。たまにおむつが上手く当たっていなくて横から漏れてしまったりしたときはすごく怒って暴言を吐きながら私の頭を蹴ったこともあったわ。それでも私はお義母さんの希望に応えたの。蹴られても怒鳴られても罵られても。すべてはお義母さんのため、主人の達也のためだったわ。私たちは家族だったの。相手を思いやるのは当然のことでしょ?
それに比べて仕事があるからとはいえ、滅多に姿を見せず、私にお義母さんを任せっきりだった涼子さんに疑われる筋合いなんてないわ。お義母さんの言葉を信じたい気持ちはわかるけどあんまりじゃないかしら?私は弱っている人を虐げるような鬼ではないわ。
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