第8話 娘語る・1

 ただいま。仕事早く終わったんだね。ご飯は食べた?私は駅で軽く食べてきたよ。じゃあお茶でも入れようかな。大輔はコーヒーでいいよね?

 

 うん、お義姉さんに会えたよ。いろいろ聞いてみたけど、全部それらしい説明ではぐらかされちゃった。でもね、お義姉さんがお母さんや兄さんを恨む気持ちや復讐したくなる気持ちはわかるの。私が見ていても、お義姉さんの扱いはひどかったから。


 お母さんは長男第一主義でとことん兄さんを甘やかしてきたし、自分が姑からきついことを言われながら生きてきた人だから、同じようにしか嫁という存在を見ることができないのかもしれない。だから当たり前のようにお義姉さんを貶し続けてきたんだわ。兄さんは親族全員から甘やかされてきた人だから、誰からでも何かをしてもらって当然だと思っているのよね。まわりの人間はみんな自分の召使みたいに思っている感じかしら。そういう人たちに囲まれた嫁って本当に気の毒だわ。


 夕夏さんの印象?それは前に話した通りで、今もあまり変わってないわね。根はいい人だと思っているの。癖のある人たちに囲まれて暮らしていても愚痴をこぼさず家事と介護をやり遂げるって並大抵のことではないと思うから。だからこそ怖い人だとも思うの。いつも困ったような笑顔ではい、としか言わないなんてやっぱりおかしいわよ。ずっと腹の中で何を思っていたかわからないわ。


 夕夏さんはきっと裏の顔を持っていると思うの。母さんにしか見せなかった裏の顔をね。同居を始めてから私と兄さんがいない間に裏の顔を現して、お母さんに目には見えないような事故を装える陰湿な虐待を続けていたんだわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る