ボリューム的には中編でしょうか、文章が読みやすいのであっという間に読み終わります。だからこそ読んでほしい物語です。
余命半年という、かなり適当な性格の小笠原先輩にまつわる話です。彼の心情はその性格、行動ゆえに理解することが難しいのですが、じんわりとにじみだしています。そのあたりの表現がとくに素晴らしく、つい自分の身に置き換えて考えさせられます。
先輩をとりまくキャラクターも曲者ぞろい、彼らが所属するビリヤード部という設定もなかなか奥深く感じられてきます。
とにかく読んでほしい、作中に流れる思いを感じてほしい、そんな物語でした。
仮に、あと半年の命じゃなかったとして、
彼は、やりたいことをやり切れただろうか?
ごく軽い口調の余命宣告から始まる、
「死ぬまでにやりたいこと」を問い掛けるストーリー。
ちゃらんぽらんで自由、支離滅裂で正直、
へらへらしてるくせに芯があって、
自分本意っぽいけど本当はまわりの人たちを愛してる人。
そして、どんなに怖い思いをしても笑ってる、そんな人。
自分が半年の命だと知ったとき、彼が望んだのは、
彼自身の欲とは別のものだったように見えた。
誰かのため、とかいう空々しい目的じゃなくて、
彼はたぶん本能的に動いただけなんだろうけど。
あいつらを潰そう、と言い出した。
全部やろう、と全員を認めた。
みんなでやったから楽しかった。
楽しかったからこそ怖かったと思うんだ、本当は。
彼がいたからできたことは、
彼ひとりではやらなかったかもしれない。
彼は、ひとりでは笑わないんじゃないかという気がして。
いつも笑ってる人なのに。
正直な弱音も吐きながら、もっと正直な笑い方をして、
じたばた暴れて仲間に迷惑をかけて、
でもその迷惑すら楽しすぎて笑い合って、
「わたし」の心をアッサリさらっていった小笠原先輩。
テンポよく爽やかに読み切って、
不思議な楽しさのある作品だと思ったのに、
レビューまとめてるうちに喪失感で涙が出てきた。
染み込んで刺さってくる、こういう作品はすごく好きだ。
「不思議な小説」
それが第一印象です。
この小説を形容する言葉を探してみましたが
それしか思い浮かばないのです。
大学1年女子(語り部)が好きな先輩。
この先輩がちょっと変わり者で……
というストーリーなのですが、
短いなかに「起・承・転・結」が
クッキリと練り込まれていて
(章立てもそうなってるわけですが……)
次はいったいどうなるかと考えるヒマもなく
グングン引き込まれます。
こちらの予想なんか、はるかに飛び越えます。
しかも、その構成力に加えて、
文章がものすごくお上手。
読みやすい。リズミカル。隙がない。
本当に見事な作品でした。
「小説を読む楽しみ」を
存分に味わえる作品です。
ぜひ、ページを開いてみてください。