その手に翻弄され、導かれ、多くのものを失った後で、彼は何を手にしたのか

提示された問いの、二択の選択肢のうち、必ず正しい方を知ることができる力を得たとしたら。
使いようによっては、どんな富や権力も手にすることができるかもしれません。
だけどその力を行使するたび、自らの五感を少しずつ失っていくとしたら?
これは、そんな不思議な力を継承してしまった、一人の青年の物語です。

穏やかで、どことなく諦観の漂う語り口。
それとは裏腹に、主人公・一茶の運命は大きな奔流に呑まれていきます。
何も持たない天涯孤独の身だった彼が手にした、あまりに大きな力。
多くを失ううち、彼は自分自身を犠牲にしても良いと思えるものを見つけるのですが——

様々な思惑が行き交う中で、緩やかに繋がっていく人の温もりが、わずかな希望のように思えました。
特別な力なんかなくたって、ありきたりな幸せが手元にあれば十分なのに、それすらも難しい。
クライマックスで一茶が選んだ答えと覚悟に、涙が滲みました。

本当に大切なものは何なのか。
じわりと心に沁み入ってくる物語でした。面白かったです!

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