絶対に当たる占いの力を受け継いだ主人公は、やがて事件へと巻き込まれる。

最初から最後まで、とても面白い物語でした。

序盤は謎だらけなのですが、少しずつ秘密が明かされてゆきます。
それとともに驚くような展開が続き、読めば読むほどに止まらなくなります。

ストーリー自体も面白いのですが、作品の雰囲気がかなり独特で、そこがまた興味をそそりました。

この作品は「占い」という珍しい題材を扱っています。
主人公はしがないフリーターなのですが、副業で手相占いをしています。
駅のガード下に机を置き、やってきた人を占うのです。
この時点ですでに自分の知っている日常とはかけ離れていて興味をそそるのですが、ここからさらに主人公の生活が一変します。

彼はある日突然、「絶対に当たる占い」の能力を受け継ぐことになります。
もし実際にそのような能力を得たら、おそらく多くの人がお金儲けなど自分の得になるようなことに使うでしょう。

ところが、この作品の主人公はとにかく無欲。

メダカを大切に飼っていたり、自宅の狭いベッドが落ち着くような人。
「賢者の手」についての知識が少ないこともあり、私腹を肥やすために能力を利用しようなどとは思いつかない人です。

そんな主人公が、どのような理由で力を使うことになるのか。
占いの結果を知った周囲の人間がどう動くのか。
そして、実は占いの力に恐ろしい代償があることがわかります。それを知ってもなお、彼は能力を使い続けることになります。
このあたりの流れは、読んでいてとてもハラハラしてしまいます。

そして、最後に彼が占った内容とは。



文学作品のような雰囲気がありながら、とても親しみやすく読みやすい文章でした。
それでいて、独特のリズムがあり個性的。
緻密な描写、ユーモラスなシーン、はっとする言い回しなどがあり、作中でそれらの文章と出会うたびにドキドキしました。
描写もリアルで、その場の空気を感じられる文章でした。

個人的には主人公が羊を数えるシーンが好きです。
作中に何度か出てくるのですが、眠れない夜は描写が違っているなどの細やかさが良いのです。

一人称という形式がとても効果的に使われていると思います。
世の中には主人公目線の物語がたくさんありますが、観察眼(占い師という職業によるものでしょうか)と、おそらく彼の性格からくる言葉選びのセンスが素晴らしいです。

また、エピソードタイトルがとても洒落ています。
その意味に気付いたとき、作品を読むのがより一層楽しくなりました。
「乙女」から始まり「双子」で終わっているところがとても素晴らしいです。円が綺麗にとじた感じがします。
タイトルの『賢者の手』もすごく好きで、この言葉選びの秀逸さに惹かれて読み始めたくらいです。

キャラもそれぞれ個性的で、一人一人の行く末が気になるほどです。
特に主人公の一茶は親しみが持てて共感しやすい主人公でした。
そして序盤では彼が読者に話しかけているような感じがあり、そこがまた面白かったです。まるで少しずつ一茶と仲良くなっているようでした。
読者と友達になれる主人公、強い。

そして彼は底抜けにいい人なのです。
彼が「賢者の手」の能力を使う理由についての説明がたびたびありますが、彼の境遇を思えば切なくも納得してしまいます。
なにより、面倒くさい、疲れると思いながらもマックの面倒をみてあげるところがいい人だなと感じます。

文章、構成、キャラクターなど、どれをとってもかなり高い筆力を感じる作品でした。文句なしのおすすめ作品です。
作者様は他にもいくつもの作品を投稿されていて、そちらはまた少し雰囲気が違うらしいので、読むのが楽しみです。

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