私達人類は、「今」をどう生きるべきか。何を選ぶべきか。未来の為に。

西暦2056年。司法から経済まであらゆることがAIにコントロールされる体制の元、人間は教育課程を終えれば仮想世界で娯楽に浸る生活を送る——そんな社会が到来していた。
ある時、小学校教育課程の履修の最中である二人の天才少年が、学校生活の中で起こる微かな違和感に気づく。
やがて二人は、仮想空間の生みの親である優秀な博士と出会い、彼を通して知り合うことになった4人の卓越した頭脳を持つ少年少女とともに、人間社会を管理するAIシステムの深部へと踏み込んでいく。
AIが完全に人間を支配し、人間の生きる意味そのものが失われつつある状況の元、一般的な頭脳では決して解明し得ないコンピュータシステムの核心へと迫る彼らが辿り着いた「AIシステムの企み」とは——?
作者の知識と想像力の豊かさを垣間見るような作品のスケールの大きさに、深く感嘆しつつ読んだ。そして、内容の複雑さを読み手にスムーズに伝える筆力の高さは圧倒的だ。気づけば混沌とした未来の世界に否応なく引きずり込まれている。

人類が、今、どこへ向かって進んでいるのか。それをはっきりと予見できている人間が、どれくらいいるだろう。
少なくとも、現状のまま先に進めば、人類の未来に明るい予感を持つことはとてもできない。それだけははっきりしている気がする。

人間は、土壇場まで追い詰められなければ、人類の未来を明るい方向に転換することはできないのだろうか。この物語のクライマックスに、そんな背筋の冷える恐怖を感じた。リアルの「未来の人間達」が、土壇場まで追い詰められて果たして生き残る道を選択できるのか。土壇場まで来てはっと我に返り、何かを始めたところで果たして間に合うのか? 甚だ疑問である。

人間が、自分たちの未来を守るために、「今できること」は何か。 
それを考え、最も有効な方法を選び取るのは、今生きている私達だ。やがて訪れるかもしれない恐ろしい未来を想像力を持って予測し、今できる最善の策を人間全体で選択できなければ、人類に明るい未来はない。
私達は、「今」をどう生きるべきか。何を選択すべきなのか。読み終えた後にそんなことを本気で考えたくなる、ずっしりと読み応えのあるSF長編だ。

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