「読ませる工夫」と「考えさせる苦労」

忙しい現代人がネット小説に求めるものとはなにか? 

それは読者によって異なるのだとは思うが、やはり“読みやすさ”ではないだろうか? 通勤通学の合間に、ちょっとした休憩時間に、スマホ片手に読むことができるネット小説は、読み手の目に優しく作るべきである。

などとわかっちゃいるのだが、書いているうちにムダに、冗長に、ダラダラと駄文を垂れ流す私のようなタイプもいる。“書きたいこと”と“書かにゃならんこと”は違うんだよと理解はしていても手が止まらないんです。猛省!

さて、本作『ヒーロー&ヴィラン』は、あくまでも読みやすさの見地に立って書かれている。段落は短く区切ってあり、展開が早い。状況の描写は簡素かつストレートにまとめられており、無駄を削ぎ落としている。話を理解するのに必要な情報の提供量を最低限にすることで読者に対して優しい作品となっている。「読ませる工夫」は、ここにある。作者、前田薫氏が他に手がけている歴史小説を見てみるとハードで重厚な雰囲気が強いが、本作の文章はライトだ。氏本来の芸風は重厚のほうだと思うのだが、こちらでは使い分けている。作品に合わせたのだろう。

展開の早さは戦記物らしいスピード感を生んでいる(そう、タイトルだけ見るとアクション物っぽいが、これは戦記物なのだ!)。政治背景となる対立構造は魔族VS機械族というシンプルなもので(厳密に言うと、のちのち違ってくるのだが、概ねそんな感じ)わかりやすい。

とっつきやすい外殻を持つ一方で、作品のテーマは深いものとなっている。前田氏自身、“人によって受け取り方が違うように書いた”と語るが「考えさせる苦労」というものがあったのではないか? 結論づけるのは作者ではなく読者、というスタイルは、書くこと自体は出来ても、そう促すのは難しい。最終局面にいたるまでの展開が陳腐であったなら誰も考えやしないが、ただ劇的であるだけというのなら、議論の対象にもならないからだ。

ヒーローとは? そしてヴィランとは? 

激動の異世界史は、最終的にそれに尽きることとなる。誰がヒーローで誰が悪役なのか? そもそもヒーローとはなんなのか? 読者は考えさせられるはずだ。その結論自体、永遠に出ないのかもしれないが……





嗚呼、また無意味に長くなってしまった!

とにかく、この『ヒーロー&ヴィラン』は、ホントに、確実に、最高に、超、面白いです! あなたもタイトルの意味を、いっしょに考えてみませんか? で、いいのにね。

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