終話「ともにゃんの空想」

原子炉について熱っぽく語りながら、彼は仲間たちと共に笑い合っていた。

その傍らには、先ほどの女性『みきちゃん』と、『カオステラー』であった『やなちゃん』の姿もある。

どちらも、歪められた物語で見たような姿ではなく、ごくごく普通の人だ。

そして、また、ともにゃん。彼もまた魔法の使えない人間へと戻っているようだった。


「あれが、ともにゃんの本来の姿・・・」

「そうみたいね」


魔法少女に憧れながらも、魔法のない世界であの衣装を着て笑う彼を見た。

彼は魔法がないこの世界でも、魔法少女でありつづけるのだろう。

それが、本来の彼の役割。

本当に、調律をして良かったんだろうか?

ともにゃんはフェアリーゴッドマザーのような、本物の魔法を使えるようになりたかったんじゃないだろうか?

その本心は僕たちには分からない。そして、こんな『想区』を生み出し続ける『ストリーテラー』にも僕はやはり疑問を持ち続けるのだった。

本来の物語より、本人が望む姿にすると言ったロキ達ーーー「混沌の巫女」達。

彼らの言い分に加担するつもりはないけれど・・・、僕はやっぱり、ともにゃんが本当の魔法少女である世界のままの方が良かったんじゃないかと思わずにはいられないのも事実だ。

だから、思わず、僕は駆け出してしまった。ともにゃんに本心を聞きたくて。

「ちょっと、エクス、どこ行くの!?」


「ともにゃん!」

ともにゃんは全く知らない人に声をかけられたかのように驚いたが、すぐにあの微笑みに顔をかえた。

「はい、僕がともにゃんですよー」

「あの、魔法少女って」

と言いかけた僕の口に人差し指を押し付けて、言葉を止める。

「僕が魔法少女だってどこで聞いたのか知らないけど・・・」

そう言って、またあのイタズラっぽい笑顔でこう付け足した。

「みんなには内緒だよ?」

ともにゃんは信じている。

彼は微塵も疑ってなんかなかった。

この魔法が存在しない世界で、自分が魔法少女でいるという『事実』を。

僕は急に自分が恥ずかしくなって、急いでレイナたちの元に戻った。

ともにゃんは不思議そうな顔で僕を見送った。


僕はともにゃんから沢山の事を学んだ。

自分が信じた事を疑ってはいけないということ。

そして、考え続けるということ。

考える事をやめた時、それは終わるのだということ。

空想。まさに、ここは『ともにゃんの空想』の『想区』だったのだ。

考え続けた、ともにゃんの『想区』なのだ。

僕が戻ってくると、レイナはぷんぷん怒って口を開いた。

「もう!勝手な行動しないの!空白の書の持ち主は居るだけで『想区』に混乱を起こしかねないんだから!おふざけは禁止!」

「ごめん、ごめん、レイナ」

そして、僕は誰にも聞かれないように小さな声でこう、呟いた。

「バイバイ、ともにゃん。また、世界がピンチになったら、僕たちと一緒に世界を救おうね」

僕はそう言うと、レイナ達と次の想区へと旅立つのだった。






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グリムノーツ「ともにゃん」の想区 やなちゃん@がんばるんば! @nyankonosirusi

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